彼の真意
今年の5月まで付き合っていた彼の話。
料理が好きで、調理場でバイトをしていた。
付き合い始めの頃、私が作った味噌汁に、溶け残りの味噌が固まって入っていたことがあった。
飲み終えてから気付いて、恥ずかしさから
「どうして早く言わないの!?」
と怒った私に、
「好きな人が作ってくれたものは、みんな美味しいんだよ」
と言ってくれた。
彼は、よく美味しい料理を作ってくれた。
私よりかなり上手。
そのうち、私の料理がまずければ正直に、
「まずい」
と言うようになった。
「料理が上手になって欲しいから」
と言う。
料理する度に文句を言われるから、
『長く付き合うと、優しくなくなるんだなぁ』
なんて思って、せがまれても作らなくなった。
※
彼とは5月に別れた。
彼のことを好きかどうか分からなくなって。
彼は、優しかった。
彼から別れを切り出した。
私の気持ちに気付いていると思わなかった。
次第に冷たい態度を取って行っていたのだと思う。
自分の鈍感さに、非道さに気付いて泣いた。
何度も謝ったけど、彼への仕打ちは消えない。
好きな気持ちが離れて行くのを、彼はずっと気付いていた。
どうすることもできず、いつものように振る舞って、ついには自分から私を手放した。
望んでいないのに。
私よりずっとキツイ仕事をしているのに、
通って来てくれて、
料理を作ってくれて、
愛してくれた。
※
思えば、別れの数ヶ月くらい前から
「俺のこと好き?」
と聞くようになった。
冗談のつもりで、
「嫌い」
と言った私。
寂しそうな顔は演技だと思っていた。
※
今になって思う。
まずくても、不恰好でも、それでも私の手料理が良かったんだよね。
彼より料理が下手で、それを気にする私に、料理を教えようとして正直な感想を述べてくれていたんだよね。
なのにそのことに気付かず、努力もせず、手伝いもしないでご飯を作ってもらっていた。
ろくにお礼も言わなかった。
※
今更遅いけど、ごめんね。
こんな女が最初の彼女でごめんね。
こんな私を愛してくれて、本当にありがとう。
料理をすると彼が思い出される。
連絡をしたらきっとまた傷つけてしまう。
伝えたいけどもう伝えられない、感謝と後悔。