彼女の導き

公開日: ちょっと切ない話 | 仕事 | 恋愛

彼女(フリー写真)

もう2年も前の話になる。

当時、俺は医学生だった。彼女も居た。

世の中にこれ以上、良い女は居ないと思う程の女性だった。

しかし彼女はまだ若かったにも関わらず、突如として静脈血栓塞栓症でこの世を去った。

その時の自分は相当、精神不安定に陥っていたと思う。

葬式の時、彼女の母親が俺にこう告げた。

「あの子、亡くなる直前にあなた宛にこんな言葉を言ったわ…」

『○○君は優しいね。

私が死んだら相当落ち込むかもしれないけど、落ち込んじゃだめだよ。

ずっと一緒なんだから。

私のような人を沢山救ってね』

そして、そのまま眠るように亡くなったらしい。

その彼女の言葉を聞いた俺は、涙が溢れ出して来た。今までに無い涙の量だった。

彼女の最後の言葉が俺の事で、つまり俺の事が一番大切だったなんて思うと、余計に涙が溢れて来た。

俺はその時、亡き彼女に誓った。

お前の命は絶対に無駄にしない、と。

そして今現在、俺は心臓外科医を勤めている。

もうあんな悲しい結末は経験したくないからでもあり、彼女に誓ったからでもある。

時々彼女は、俺の夢の中に出て来て、とびっきりの笑顔を見せてくれる。

その最高の笑顔は、俺の活躍を祝福してくれる。

そして俺を立派な医師になるための道に導いてくれるのだ。

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