旅で得た千円札

公開日: 心温まる話

駅のホーム

学生時代、ほとんどお金を持たずに貧乏旅行に出た私。帰りの寝台列車の切符を買ったら、残金はわずか80円になってしまった。食事をしていないのは丸一日、家に着くまではまだ36時間以上ある。

駅のホームで途方に暮れていると、見知らぬお婆さんが心配そうに私に声をかけてきた。彼女に事情を話すと、優しく茹で卵を二個分けてくれた。さらに、私のポケットに千円札を押し込む彼女は、「あなたが大人になったら、同じような境遇の若者を見たときは、手を差し伸べてあげてください。社会ってそういうものですから」と言った。その言葉に私は感動して涙がこぼれた。

お婆さんと別れて列車に乗り込むと、隣のボックスにはお孫さんが生まれたばかりのお爺さんがいた。お爺さんは自分で詠んだ和歌集を持っており、それを和綴じにしてほしいと頼まれた。手持ちの糸を使い、彼の和歌集を綴じた。それだけのことだったが、お爺さんは深々と頭を下げ、「あなたの心づくしを生涯忘れません」と感謝を示した。そして、恥ずかしそうに「無礼と思わないでください」と言いながら、私に豪華な弁当をご馳走してくれた。

その旅で得た千円札は、14年経った今も私の手元にある。このお金は何か特別なことに使おうと思っているが、まだ使っていない。時折見かける腹立たしい老人もいるが、このような素晴らしい人々との出会いに感謝している。私は本当に幸運な人間だ。

関連記事

空(フリー写真)

才能の代わりに

小学生の時、少し知恵遅れのA君が居た。 足し算、引き算などの計算や、会話のテンポが少し遅い。でも、絵がとても上手な子だった。 彼はよく空の絵を描いた。抜けるような色合いには…

カップル

傷跡を越えて

私は生まれながらに足に大きな痣があり、それが自分自身でもとても嫌いでした。その上、小学生の時に不注意で熱湯をひっくり返し、両足に深刻な火傷を負いました。痕は治療を重ねましたが、完全に…

桜

母の愛、娘の成長

中学2年生の夏から一年間入院し、その後の人生は自立への道だった。 高校受験、下宿生活、卒業後の就職、そして結婚。 家族への連絡は少なく、ホームシックを感じることもなかった…

カップル(フリー写真)

僕はずっと傍に居るよ

私は昔から、何事にも無関心で無愛想でした。 友達は片手で数えるほどしか居らず、恋愛なんて生まれてこの方、二回しか経験がありません。 しかし無愛想・無関心ではやって行けないご…

夫婦

愛の記憶

嫁がお風呂に入っている間に、つい彼女の携帯を見てしまった。 メールボックスには、私が送った些細な内容のメールばかりが溢れていた。 しかし、あるフォルダを開くと、そこには知…

桜(フリー写真)

天国のお父さんへ

幼くして父親を亡くした女の子が、小学校に入学する頃のことでした。 周りの子はみんな、親から買ってもらった赤いランドセルを背負って通学していました。 しかし、その子の家庭は幼…

花嫁(フリー写真)

兄として、父として

最近、私は友人の娘の結婚式に参加しました。 その友人とは高校時代からの長い付き合いで、その娘のこともよく知っています。 彼女の結婚式の案内を受けて、私は喜んで出席すること…

ラジオ

ラジオから伝わる愛

私が子供の頃から、近所に住むご夫婦に可愛がられて育ちました。その夫婦には子供がおらず、私は幼いころから特別な存在でした。 おじさんは土建屋の事務員で無口な人ですが、優しさに溢れ…

電話機

電話越しの陽だまり

結構前、家の固定電話が鳴った。 『固定電話にかけてくるなんて、誰だろう?』と思いつつ、電話に出ると、若い男の声がした。 「もしもし? 俺だけど、母さん?」 すぐにオ…

倉庫(フリー写真)

おじさんとの約束

数年前の話です。 僕が大学生の頃、日雇いのアルバイトをしていました。 事務所に電話で翌日のアルバイトの予約をして、現場に行って働いていました。 主にやっていた仕事は…