素直な感謝の気持ち
公開日: 心温まる話
今日、近所の交差点で車に乗り信号待ちをしていると、前方の右折車線でジリジリ前進している車がいた。
明らかに『信号が青になった瞬間に曲がっちまおう』というのが見え見え。
この道路は主要幹線で交通量も多い。
確かにこのチャンスを逃したら、右折信号が出るまでの数分は足止めを食らうだろう。
俺は、
「ほんの数分も待てねーのかよ」
と毒づきながら、信号が変わる瞬間を待っていた。
当然、譲る気は無い。
昼飯前の空腹感と暑さが、俺を少々苛立たせていた。
すると、いきなり俺の左の車線の車から中年の男性が降りて来た。
自分の車を放って置いて。
その車には誰も乗っていない。
もうすぐ信号が変わる大通りで信じられない出来事。
そのおじさんは、俺の車の前に背を向けて立ち『止まっとけ』のサインを出しつつ、右折しようとした車に『早く行け』と手を振った。
右折車が、結構なスピードで右折して行く。
しかし、俺の目にははっきりと見えた。
苦しそうな顔の女性が。
助手席の窓にまで達した大きな腹。
明らかに妊婦。
俺は咄嗟に助手席の窓を全開にし、小走りで車に戻ろうとしていたおじさんに叫んだ。
「ありがとう!全然気付かなかったよ!」
おじさんは、ちょっとびっくりしたような顔をすると、
「仕事が交通整理なんでな!」
と、笑いながら言い返してきた。
その顔の誇らしげなこと。
とても眩しく見えた。
後続車の猛クラクションの中、俺たちは慌てて発進した。
ハザードを二回焚く。
多分、隣の車も。
※
結果的に俺は何も出来なかった訳だが、あそこで「ありがとう」と言えた自分に感謝したい。
素直な感謝の気持ちをそのまま言葉にする。
自分が本当に思っていることを口にして言うだけなのに、それが恥ずかしくて出来なかった、愚かな俺。
今まで、本当に言いたいことも言えず、へらへら生きてきただけの自分を後悔する毎日だったから。
それがちゃんと出来ることを教えてくれたおじさん、本当にありがとう。
そして、あの時の妊婦さんが元気な子供を生んでくれることを、心からお祈りします。