おじさんとの約束

公開日: 仕事 | 心温まる話

倉庫(フリー写真)

数年前の話です。

僕が大学生の頃、日雇いのアルバイトをしていました。

事務所に電話で翌日のアルバイトの予約をして、現場に行って働いていました。

主にやっていた仕事は、引っ越しや移転、倉庫のピッキングでした。

そこで出会ったある人のことをお話します。

その人は50代前半の男性でした。

僕はタバコを吸わなかったので、喫煙所のない休憩室で休憩をしていました。

そのおじさんもタバコを吸わないということもあり、いつも一緒に休憩していました。

おじさんの見た目は、銀行や市役所の重役のような雰囲気で、整った白髪頭に度の強い眼鏡をかけていました。

ずっと疑問だったのは、なぜこの人がこの仕事をしているのかということでした。

よくよく聞くと、平日は普通の仕事をしていて、土日だけこの仕事をしているとでした。

仕事は、公的機関とのことでした。

家族の住む家に帰らずに一人でアパートに住んでいて、生活費が不足しているため、アルバイトをしているということでした。

その理由については、妻との関係が悪くなり、家に居づらくなったとのことでした。

浮気をした訳でもなく、子供とも仲が悪い訳でもないものの、妻に対する感謝の気持ちなどを上手く表せなかったため、関係が悪化したとのことでした。

それであれば、感謝の気持ちを伝えて家に戻れば良いのにと思ってしまうのですが、不器用な人なのかそれができないままになっていたようです。

それでも、外で子供と会って仲直りの仲介をしてもらう努力を続けているとのことでした。

日雇い派遣の仕事ですが、登録していた派遣会社がメインの派遣先との契約を解消したことなどもあり、徐々に派遣先が減って行きました。

元々は倉庫で働いていたのですが、その職場が無くなり、移転がメインになりました。

僕は大学を卒業し、就職することになりました。

派遣アルバイトも辞めることになり、おじさんとも別れることに。

そのおじさんの行く末が気になったので、最後に会ったときに、

「家族の元に戻れたら連絡をして欲しい」

と言っておきました。

4月になり、就職した会社の研修を受けていた時に、おじさんから電話がかかって来ました。

「家族の住む家に戻った」

とのことでした。

おじさんは、私との約束を忘れていなかったのです。

それ以来、そのおじさんと会うことも電話をすることもありませんが、きっと家族と元気で暮らしていることでしょう。

関連記事

太陽(フリー写真)

一身独立

私が小さな建築関係のメーカーの担当営業をしていた頃の話です。 私の担当区域には、小さな個人商店がありました。 先代の社長を亡くし、若くして社長になった社長には二人の男の子が…

クリスマスプレゼント(フリー写真)

サンタさんから頼まれた

※編注: このお話は、東日本大震災発生から5日後の3月16日に2ちゃんねるに書き込まれました。 ※ 当方、宮城県民。 朝からスーパーに並んでいたのだが、私の前に母親と泣きべそ…

イチゴのショートケーキ(フリー写真)

イチゴショートと女の子

俺がケーキ屋で支払いをしていると、自動ドアが開いて、幼稚園児くらいの女の子が入って来た。 女の子は一人で買い物に来たらしく、極度の緊張からか、頬を赤く染め真剣な眼差しで店員に …

お花畑(フリー写真)

本当のやさしさ

遡ること、今から15年以上前。 当時、小学6年生だった僕のクラスに、A君というクラスメイトがいました。 父親のいないA君の家は暮らしぶりが悪いようで、いつも兄弟のお下がりと…

手を握る(フリー写真)

仲直り

金持ちで顔もまあまあ。 何より明るくて突っ込みが上手く、ボケた方が 「俺、笑いの才能あるんじゃね」 と勘違いするほど(笑)。 彼の周りには常に笑いが絶えなかった…

教室の風景(フリー写真)

変わらぬ優しい笑顔

酷い虐めだった。 胃潰瘍ができるほど、毎日毎日、恐怖が続いた。 今もそのトラウマが残っている。 僕がボクシングを始めた理由。それは、中学生の時の虐めだ。 相手…

ハート(フリー素材)

残りの一年

彼女に大事な話があるからと呼び出した。 彼女も俺に大事な話があると言われて待ち合わせ。 てっきり別れると言われるのかと思ってビビりながら、いつものツタヤの駐車場に集合。 …

クリスマス(フリー写真)

サンタさんへの手紙

6歳の娘がクリスマスの数日前から、欲しいものを手紙に書いて窓際に置いていた。 何が欲しいのかなあと、夫とキティちゃんの便箋を破らないようにして手紙を覗いてみたら、こう書いてあった…

教室(フリー写真)

先生の決心

俺のばあちゃんから聞いた、ばあちゃんの小学生時代の話をする。 ばあちゃんが小学5年生の時の担任の先生、島田先生はとても良い先生だったそうだ。 とても熱心で生徒思いの先生だ…

母の手(フリー写真)

お母さんが居ないということ

先日、二十歳になった日の出来事です。 「一日でいいからうちに帰って来い」 東京に住む父にそう言われ、私は『就職活動中なのに…』と思いながら、しぶしぶ帰りました。 実…