脳内共同ガールフレンド

公開日: 心温まる話 | 戦時中の話

椅子(フリー写真)

大戦中にドイツ軍の捕虜収容所に居たフランス兵たちのグループが、長引く捕虜生活の苛立ちから来る仲間内の喧嘩や悲嘆を紛らわすために、皆で脳内共同ガールフレンドなるものを作った話を思い出した。

そのグループが収容されていた雑居房のバラック。その隅に置かれた一つの席は、13歳の可愛らしい少女がいつも座っている指定席だった(という、皆のイメージ)。

彼らグループの中で、喧嘩や口論など紳士らしからぬ振る舞いに及んだ者は誰であろうと、その席に居る少女に頭を下げ、皆に聞こえる声で非礼を詫びなければならない。

着替えの時は、見苦しい姿を彼女に見せぬように、その席の前に目隠しの布を吊った。

食事の時は、皆の分を分け合って彼女の為に一膳をこしらえ、予め決められた彼女の『誕生日』やクリスマスには、各自がささやかな手作りのプレゼントを用意し、歌でお祝いをする。

最初は慰みのゲームのようなものだったのが、皆があまり熱心になると、監視のドイツ軍までもが、彼らが本当に少女を一人匿っているものと勘違いして、彼らの雑居房を天井裏まで家捜しするという珍事まで起こった。

だが厳しい捕虜生活の中で、他の捕虜たちが衰弱して病死したり発狂や自殺したりする中、そのグループは全員が正気を保って生き延び、戦後に揃って故国の土を踏んだという。

関連記事

海

最後の敬礼 – 沖縄壕の絆

沖縄、戦時の地に息をひそめる少年がいました。 12歳の叔父さんは、自然の力を借りた壕で日々を過ごしていたのです。 住民たちや、運命に翻弄された負傷兵たちと共に。 し…

父の手(フリー写真)

受け継がれた情熱

俺の親父は消防士だった。 いつ何があってもおかしくない仕事だから、よく母に 「俺に何かあっても、お前らが苦労しないようにはしてる」 と言っていたのを憶えている。 ※…

手紙(フリー写真)

天国の妻からの手紙

嫁が激しい闘病生活の末、若くして亡くなった。 その5年後、こんな手紙が届いた。 どうやら死期が迫った頃、未来の俺に向けて書いたものみたいだ。 ※ Dear 未来の○○ …

空と太陽の光(フリー写真)

平和な世界で

あなたへ あなたが、戦地にお向かいになってからもう、何度目の夜でしょう。 娘も、こんなに大きくなって。 あなた、見ていてくれていますか? あの時、私はあなたに言…

月明かり(フリー写真)

お月さんの下で

昨日、彼女の家の犬が死んだ。 彼女の家は昔、彼女の兄貴が高校生という若さで自殺してから、両親も彼女もうつ病になって酷い状態だったらしい。 そんな時に引き取って来た犬だったそ…

戦後

少女の小さな勇気

第二次大戦が終わり、私は復員した日本の兵士の家族たちへの通知業務に就いていました。暑い日の出来事です。毎日、痩せ衰えた留守家族たちに彼らの愛する人々の死を伝える、とても苦しい仕事でし…

桜の木(フリー写真)

トムの桜

小学校の頃、クラスの友人が手から血を流していたので、ティッシュを渡してあげた。 「どうしたんだ?」 と聞いたところ、ムカつく猫が居たので捕まえて、水の入ったポリバケツに放り…

花嫁(フリー写真)

血の繋がらない娘

土曜日、一人娘の結婚式だったんさ。 出会った当時の俺は25歳、嫁は33歳、娘は13歳。 まあ、要するに嫁の連れ子だったんだけど。 娘も大きかったから、多少ギクシャクし…

ウェディングドレス姿の女性(フリー写真)

可愛い一人娘

この前、一人娘が嫁に行った。 目に入れても痛くないと断言できる一人娘が嫁に行った。 結婚式で「お父さん、今までありがとう。大好きです」と言われた。 相手側の親も居た…

小学生の女の子(フリー写真)

覚えたてのひらがな

ある日、妻が長女をこっぴどく叱っていた。 私「キョーコが何かしたのか?」 妻「私の車を釘みたいなもんでひっかいとるとよ!」 私「何でそんなことしたん?」 と聞…