一緒に遊んでくれた女の子
これは私が小学三年生の頃の話です。
両親が離婚して母子家庭となり、一人で居るのが怖かった私は、しょっちゅう児童館へ行っていました。
学童保育という手もあったのですが、当時は希望者が多く、入れる人は本当に少ししか居ませんでした。
児童館に行く時は、必ず友達と行っていました。
一人になるのが怖かったから。
時には男友達とも遊んでいました。
どうしても一人にはなりたくなかったから。
※
ある日、男友達も友達も児童館に来られない時がありました。
私は怖くて、怖くて、どうしようも無い気持ちで児童館に居ました。
何をすれば良いかも分からなくて、泣きそうになっていた時、
「私、1年生の○○って言うの!一緒に遊ばない?」
一つ下の、一年生の女の子に話し掛けられました。
半泣きの私は震えた声で、
「うん」
と答えました。
それからというもの、友達が来られない日は毎日彼女と遊んでいました。
※
三年生に上がる頃、学童保育に空きが出来ました。
親は私を心配し、学童保育に入れてくれました。
学童に入ってからは、寂しい思いをせずに済んだので幸せでした。
いつしか、彼女の存在は薄れて行きました。
※
ある朝、友達と登校していると彼女に話し掛けられました。
「△△(私)ちゃん、おはよう!!」
「あ、おはよ…」
『友達と楽しく話していたのに、邪魔されたなあ…』と思ってしまいました。
※
その数ヶ月後、彼女のことすら頭に無くなった頃。
朝になって登校すると、先生達が慌ただしく動いていました。
一年生の女の子が何か必死に先生に話していました。
「…それでね!その女の子、倒れてて、鼻から血が凄い出てたの!」
私はドキッとしました。
『まあ、私には関係ないよね…』なんて思い、普通に過ごしていました。
※
お昼を過ぎた頃、全校放送で朝礼を行うと放送されました。
『昼礼でしょ?』くらいに思いながら、体育館に向かいました。
校長は真っ赤な瞼と目で、震えた唇に赤い顔で、話し始めました。
「二年生の○○さんが今朝、交通事故に遭ってお亡くなりになられました」
『え? あの○○ちゃんが?』
「とてもとても優しい子で、毎朝挨拶をしてくれて…。先生は急いで病院に駆け付けたのですが…っ。その頃には…」
夢であって欲しかった。
ただ、涙は出なかった。
※
数日後にお別れ会をすると聞き、私は会場に駆け付けた。
会場のホールに入るなり、私は絶句した。
○○ちゃんの綺麗な顔が、一番奥の真ん中に、写真として…遺影として飾ってあったから。
「どうぞ。真ん中の○○ちゃんにあげてください…」
知らないお母さんに花を二つほど渡された。
周りが二年生で溢れる中、三年生の友達が話し掛けて来た。
「ほんと、かわいそうだよねぇ」
「うんうん。あ、△△ちゃん、花あげてきちゃいなよ」
三年生の友達はみんな交流のために来たのか、と言いたくなるほど軽かった。
そして、笑っていた。
※
私は恐る恐る、人が集まる箱の前に来た。
そこには、花に埋もれた彼女が居た。
綺麗な黒髪は少し短くなっていて、唇がぷるぷるで、ファンデーションを塗っているようで…。
綺麗な顔が化粧で更に綺麗になっていた。
眠っているような顔で、すぐ起きるんじゃないだろうか、なんて思ってしまった。
私はそっと花を置いた瞬間、彼女の肌に触れた。
とても、冷たい。
「まあ、ほんとかわいそうだったよね。まだ小さいのに」
友達が言った。
「そうだよねー。てか今日のあれマジうけなかった!?」
遺体の前で、普通の会話が始まった。
私は許せなかった。
※
ふと、遺体を見た瞬間、ぼろぼろと音が出るかと思うほど涙が溢れて来た。
そしてやっと、現実を感じた。
初めて、友達の前で声を上げて泣いた。
周りの子はみんな、びっくりして私を見ていた。
『頑張っているからねって、強くなるからねって…』
混濁した頭の中で『三日月』という歌の歌詞が流れ始めた。
それで更に涙が止まらなくなって、気が付いたら服の袖が涙で激しく濡れていた。
私は凄く悲しかった。
※
何年か経った今でも、あの日々とお別れ会の日は忘れない。
※
○○ちゃんへ
私はあなたのことを忘れません。
あなたの家族以外のみんながあなたを忘れても、絶対に忘れません。
楽しかった毎日をありがとう。
いつかそこに行ったらよろしくね。
本当にありがとう。