良い香りに包まれる

公開日: 家族 | 心温まる話 | 祖父母

青い花(フリー写真)

小さい頃から、寂しかったり悲しかったり困ったりすると、何だか良い香りに包まれるような気がしていた。

場所や季節が違っても、大勢の中に居る時も一人きりで居る時もいつも同じ香りだから、花や香水などではないことは確かだった。

私が二十歳になった時、母の実家が改築される事になった。

母の実家の庭には小さな蔵があり、お盆のお墓参りで寄った時に、伯母から

「もう殆ど整理したから何も大した物は残っていないけど、何か良いものがあれば自由に持って行って良いよ」

と言われ、久しぶりに蔵に入った。

中に入ると、祖母がお嫁に来た時に持参した長持ちがまだあって、よく従兄たちと隠れんぼをして中に入り込んでいた事を思い出した。

懐かしく思い出しながらその長持ちを開けた。あの頃はまだ洋服などが詰まっていた長持ちの中も、既に整理されたのかもう空だった。

長持ちは四つあって、一番奥に桐のかなり立派なものがあり、小さい頃、その長持ちだけは触ってはいけないと言われていた事を思い出した。

流石に今は良いだろうとその長持ちを開けた途端、私は良い香りに包まれた。

伯母と母に聞くと、その長持ちは私が三歳の時に亡くなった私の祖母に当たる人が嫁入り道具に持って来た長持ちで、その中には良い香りのお香を焚き込んだ着物が沢山入れられていたという事だった。

祖母にとって孫は男の子ばかりだったので、私が生まれた時に

「この着物は、大きくなったこの子にあげよう」

と嬉しそうに母や伯母に話していたと、その時初めて聞いた。

おばあちゃんだったんだね……。

関連記事

カップルの足(フリー写真)

母の持つ愛情

当時の俺は大学一年、彼女は大学四年。忘れもしない三年前の出来事。 大学に入ってすぐ、俺は軟式野球のサークルに入った。 サークルのマネージャーの中に彼女が居た。 一目惚…

駄菓子屋(フリー写真)

駄菓子屋に集結したヒーロー

近所に古い駄菓子屋がある。 経営しているのは、お婆ちゃん一人だけ(お爺ちゃんは5年程前に病気で亡くなってしまった)。 いつもニコニコしていて、とても優しいお婆ちゃんで、お金…

犬

少年とテツ

1月の寒い朝、思い出す少年がいます。 当時、私は狭心症で休職し、九州の実家で静養していました。 毎朝、愛犬テツとの散歩中、いつも遅刻ギリギリの不良少年に出会いました。 …

猫(フリー写真)

父を護衛する猫

父が突然亡くなった。 うちの猫のみぃは、父の行く先行く先に付いて行く猫だった。 「こいつはいつも俺の後を付いて来るんだ。俺の護衛なんだ」 と父は生前、少し自慢気に言っ…

消火活動(フリー写真)

救助から生まれた恋

5年前のある日、ある病院から火災発生の通報を受けた。 湿度が低い日だったせいか、現場に着いてみると既に燃え広がっていた。 救助のため中に入ると、一階はまだ何とか形を保ってい…

吹雪(フリー写真)

ばあちゃんの手紙

俺の母方のばあちゃんは、いつもニコニコしていて、かわいかった。 生んだ子供は四姉妹。 娘が全員嫁いだ後、長いことじいちゃんと二人暮らしだった。 そして、じいちゃんは2…

おばあちゃんの手(フリー写真)

祖母から孫への想い

俺は母とおばあちゃんの三人で暮らしている。 母と親父は離婚していない。 パチンコなどのギャンブルで借金を作る駄目な親父だった。 母子家庭というのはやはり経済的に苦しく…

シロツメグサ

手話で結ぶ絆

私たちの娘は3歳で、ほとんど聞こえません。 その現実を知った日、私と妻はただただ涙に暮れました。繰り返し泣きました。 難聴という言葉が娘を別の世界の生き物に見せてしまうほ…

通帳(フリー写真)

ばあちゃんの封筒

糖尿病を患っていて、目が見えなかったばあちゃん。 一番家が近くて、よく遊びに来る私を随分可愛がってくれた。 思えば、小さい頃の記憶は、殆どばあちゃんと一緒に居た気がする(母…

カーネーション(フリー写真)

本当のお母さん

俺が6歳の頃、親父が再婚して義母がやって来た。 ある日、親父が 「今日からこの人がお前のお母さんだ」 と言って連れて来たのだ。 新しい母親は、俺を本当の子供のよ…