母ちゃんとラーメン

公開日: 家族 | 心温まる話 |

ラーメン(フリー写真)

今日、俺は珍しく母ちゃんを外食に誘った。

行き先は、昔からよく行く馴染みのラーメン屋だった。

俺は味噌ラーメンの大盛り、母ちゃんは味噌ラーメンの並盛りを頼んだ。

「昔からここ美味しいのよね」

と、柄にもなく顔に皺を寄せて笑っていた。

ラーメンが出来上がると、俺も母ちゃんも夢中で麺をすすっていた。

あまりにも母ちゃんがニコニコしながら食べているものだから、俺もつられて笑っちまったよ。

暫く経って、ラーメンを食い終わった俺は、ふと母ちゃんの方を見たんだ。

ラーメンの器に浮かぶチャーシューが一枚、二枚、三枚…。そのチャーシューを捲ると、麺がまだ沢山余っていた。

母ちゃんは俺の方を申し訳なさそうに見て、

「ごめんね。母ちゃん、もう年だから。ごめんね」

と繰り返していた。

「んなもんしゃーねーべ」

と言うと、俺は母ちゃんの残したラーメンをすすった。

そういやガキの頃、よく無理して大盛りを頼んで、結局食べ切れなくて母ちゃんに食ってもらってたっけ。

いつの間にか立場も逆転。あんなに若かった母ちゃんの顔も今じゃ皺だらけで、背丈も頭一個分違う。

その皺の数ほど、今まで散々迷惑掛けたんだろうなって思うと、悔しさと不甲斐なさで涙が出て来る。

母ちゃん、こんな俺を今まで育ててくれてありがとう。

俺、立派な社会人になるわ。

関連記事

町並み

町の片隅に住む五人家族

それは、お父さん、お母さん、そして小学生の三姉妹から成る仲良しの一家だった。 しかし、時は残酷にもその家族の中心であるお母さんを奪ってしまう。 ある日の帰宅途中、悲しい交…

たんぽぽを持つ手(フリー写真)

あした

私の甥っ子は、母親である妹が病気で入院した時に、暫くパパママと離れて実家の父母の家に預けられていました。 「ままがびょうきだから、おとまりさせてね」 と言いながら、小さな体…

猫(フリー写真)

父を護衛する猫

父が突然亡くなった。 うちの猫のみぃは、父の行く先行く先に付いて行く猫だった。 「こいつはいつも俺の後を付いて来るんだ。俺の護衛なんだ」 と父は生前、少し自慢気に言っ…

星空(フリー写真)

一生懸命に生きて

私は昨日、小学4年生の子から手紙で相談を受けました。 『僕のお母さんに元気になって欲しくて、プレゼントをあげたいんだけど、僕のお小遣いは329円しかありません。この値段で買えて、…

お茶碗(フリー写真)

テーブルのお皿

私と淳子は、結婚して社宅で暮らし始めました。 台所には四人がやっと座れる小さなテーブルを置き、そこにピカピカの二枚のお皿が並びます。 新しい生活が始まることを感じました。 …

病院(フリー素材)

大好きなおじいちゃん

私は昔、いらんことばっかりしてたね。 私は兵庫県で、おじいちゃんは鹿児島に住んどった。 盆休みやお正月の長い連休は、よく遊びに行ってたね。 毎回遊びに帰る度にいっつ…

教室

先生の目に浮かぶ涙

私がその先生に出会ったのは、中学一年生の時。 明るくて元気いっぱいの先生だったけれど、怒るときはすごい勢いで怒る。 そんなパワフルな先生が、私はとても好きだった。 …

月

三度の祈り

それは今から数年前、俺の人生における三度の神頼みの始まりでした。 最初は七歳の時、両親が離婚し、厳しい祖父母の元へ預けられた時のことです。 彼らから「お前のせいで別れた」…

花束(フリー写真)

大切なあなたに花束を

私は介護施設で働いています。 時々おじいちゃんやおばあちゃん宛に、ご家族の方よりお手紙や花束が届きます。 花束を持って行くと、皆さん集まって来ます。 自分かもしれない…

窓辺(フリー写真)

失われた家族

妻と娘が一ヶ月前に交通事故で命を落としました。 独りで運転していた車が大破したそうです。 その知らせを受けたとき、私は出張先の根室にいました。 帰るのは一苦労でした…