母ちゃんの記憶
母ちゃんは俺が4歳の時、病気で死んだんだ。
ぼんやりと憶えている事が一つ。
俺はいつも公園で遊んでいたのだが、夕方になるとみんなの母ちゃんが迎えに来るんだ。
うちの母ちゃんは入院生活が長くて、どうせ帰っても親父は仕事だし、家には誰も居ない。
だから暗くなってもよく公園に居たな。部活帰りの兄貴が公園の前を通るので、一緒に帰るのが日課だった。
※
その日も、暗くなってから砂場で遊んでいた。
そしたら俺を呼ぶ声が聞こえて、母ちゃんが息切れしながら歩いて来た。
「ママーママー」
と馬鹿みたいに叫んで走ったよ。
辺りは暗くなっていたが、母ちゃんは
「ブランコに一緒に乗ろう」
と言い、俺を膝に乗せて暫くそうしてくれていた。
※
その後、何日かして病院で死んじまった。
後から親父に聞いたら、自分でも長くない事が解っていたらしい。
あの時、母ちゃんはどんな気持ちを抱えていたんだ?
「どうしていつも病院に居るの?」
なんて、しつこく聞いてごめん。
辛かっただろう。
※
来年、彼女と結婚するよ。
母ちゃんの分も、向こうのお袋さんを大事にすっから。