本当のお金の価値

公開日: ちょっと切ない話 | 家族 |

父の背中(フリー写真)

私が中学校1年生の時の話である。

私は思春期や反抗期の真っ只中ということもあり、少しばかりやんちゃをしていた。

不法侵入をしたり、深夜まで遊んでいたこともあり、警察にはしばしばお世話になっていた。

授業中も教室に居ることは少なくなり、友達と体育館の裏などで話していた。

すると友達がポケットからお菓子を取り出し、

「これ、そこのコンビニで万引きして来た」

と自慢気に言い出した。

それが悪いことであることは解っていたが、若さのあまり興奮が治まらなかった。

そして私の周りでは、少しずつ万引きが流行るようになって行った。

最初は駄菓子屋で 20円くらいのお菓子を万引きすることから始まり、コンビニやスーパーなどでも万引をするようになった。

ついには UFOキャッチャーの景品にまで手を伸ばすほどエスカレートした。

ある日、私が別の友達と遊んでいる時、万引きをしていた友達が店員に取り押さえられて捕まった。

そこから私たちは芋づる方式で捕まって行った。

学校でも大問題になり、数名が警察沙汰にまでなった。

私は警察沙汰にはならなかったものの、その犯行がばれたスーパーへ父親と謝罪しに行くことになった。

そのスーパーで万引きしたのは、200円ほどのお菓子だった。

平日の登校日、制服に着替えて待機していると、父親がスーツの胸ポケットに封筒を入れていた。

きっと謝罪文か何かだろう。

父親と一緒にスーパーへ行く車内は無言だった。

スーパーに着いて従業員の会議室へ案内されると店長が待っていた。

私と父親は頭を下げ、謝罪をした。

店長は非常に素敵な笑顔で、

「中学生なので仕方がないですよ。私にもこんな時期がありました。

許せない行為ですが、誠意は見させていただいたのでお顔を上げてください」

と言った。しかし父親は、

「どうかこれだけでもお受け取りください」

と頭を下げ、封筒を差し出しながら言った。

その時に私は気付いた。

この封筒には大金が入っていると。

決して裕福な家庭ではなかったが、その封筒を見た時に、自分のしてしまったことをようやく反省した。

しかし店長は、

「私は絶対に受け取ることができません」

の一点張りで、その日は結局その封筒は渡せず、謝罪だけをして帰ることとなった。

そして帰りの車内で父親が言った。

「俺はお前の盗んだ 200円はめちゃくちゃ高いと思ってる。

そして、俺の胸ポケットに入っている 10万円はめちゃくちゃ安いと思う」

当時の私には何を言っているのか解らなかったが、心に留めて置いた。

年を追う毎に、この言葉の深さを知ることになる。

新卒一年目の初給料日、社会の波に飲まれながら、この言葉の意味を少しは理解できた気がする。

投稿者: 杏様

関連記事

日記帳

赦しと再生の旋律

小学校の頃、私は虐められたことがある。 ふとしたことから、クラスのボス格女子とトラブルになった私。 その日以来、無視され続け、孤立した日々を送ることになった。 中学…

ネックレス(フリー写真)

大好きなあなた

大好きなあなたは、今も笑っているのでしょうか。 小さい頃に何故かおじいちゃんに引き取られた私(当時7歳)は、そこで三人の男の子に出会いました。 9歳の凄く元気なLと、12歳…

オムライス(フリー写真)

本当の友達

二十年ほど前の話。 当時、俺の家は片親で凄く貧乏だった。 子供三人を養うために、母ちゃんは夜も寝ないで働いていた。 それでもどん底の生活だった…。 俺は中学を卒…

渓流(フリー写真)

お母さんと呼んだ日

私がまだ小学2年生の頃、継母が父の後妻として一緒に住むことになった。 特に苛められたとかそういうことは無かったのだけど、何だか馴染めなくて、いつまで経っても「お母さん」と呼べない…

親子の手

またあなたの子供になりたい

私が6歳のとき、父が再婚し、新しい母親がやって来ました。 「今日からこの人がお前のお母さんだ」と父が紹介したその日から、彼女は私を本当の子供のように可愛がってくれました。 …

絵馬(フリー写真)

絵馬に書かれた願い

この前、近くの神社まで散歩したんだ。 絵馬が沢山あって、 『あまり良い趣味じゃないな』 と思いながらも、他人の色々な願い事を見ていたんだ。 「大学に合格しますよ…

恋人(フリー写真)

彼女の遺言

大学時代の同級生仲間で、1年の時から付き合っているカップルが居ました。 仲良しで、でも二人だけの世界を作っている訳ではなく、みんなと仲良くしていました。 私は女の方の一番の…

夫婦の手(フリー写真)

空席に座る子

旦那の上司の話です。亡くなったお子さんの話だそうです。 主人の上司のA課長は、病気で子供を失いました。 当時5歳。幼稚園で言えば、年中さんですね。 原因は判りません…

カルテを持つ医師(フリー写真)

医者になれ

高校一年生の夏休みに、両親から 「大事な話がある」 と居間に呼び出された。 親父が癌で、もう手術では治り切らない状態であると。 暑さとショックで頭がボーっとして…

手を繋ぐカップル(フリー写真)

彼女に宛てた手紙

ゆいへ なあ、俺もうダメみてぇだ。 何でだ? お前に出会うまでは死にたいぐらい毎日が退屈だった。 でも今は俺すげえ生きたい。 何で病気に勝てねえんだろ? …