母の炊き込みご飯

公開日: ちょっと切ない話 | 家族 |

炊き込みご飯(フリー写真)

俺は小学生の頃、母の作った炊き込みご飯が大好物だった。

特にそれを口に出して伝えた事は無かったけど、母はちゃんと解っていて、誕生日や何かの記念日には、我が家の夕食は必ず炊き込みご飯だった。

高校生くらいになると流石に『またかよっ!』と思うようになっていたのだが、家を離れるようになっても、偶に実家に帰ると待っていたのは母の

「炊き込みご飯作ったよ。沢山食べなさい」

の言葉だった…。

ある日、会社に電話が来て、慌てて向かった病室には既に親戚が集まっていた。

モルヒネを打たれ意識の無い母の手を握り締めると、母の口が動いた。

何かを俺に言いたそうだった。母の口元に耳を近付けると、

「炊きこ……たよ。たくさ……さい」

と消え入りそうな声で言っていた。

それが最後の言葉だった。

「ママの作ったスパゲッティー大好き!」

口の周りを赤くしてスパゲッティーを食べる娘と、それを幸せそうな目で見つめる妻を見る度に、母の炊き込みご飯が食べたくなる。

関連記事

桜(フリー写真)

地元の友だち

話は遡ること3年前。 桜が開花し始めた頃、俺は自殺を考えていた。 大した理由ではないが、失恋、借金や勤めていた会社が倒産した事が重なり、全てに失望していた。 コミュニ…

妊婦さん(フリー写真)

私の宝物

中学2年生の夏から一年間も入院した。 退院して間もなく高校受験。 高校生になると、下宿生活になった…。 高校を卒業して就職。 田舎を飛び出して、会社の寮に入った…

夕日が見える町並み(フリー写真)

幸せだった日常

嫁と娘が一ヶ月前に死んだ。 交通事故で大破。 単独でした。 知らせを受けた時、出張先でしかも場所が根室だったから、帰るのに一苦労だった。 でもどうやって帰ったの…

カップル(フリー写真)

彼女の日常

俺には幼馴染の女の子が居た。 小学校から中学校まで病気のため殆んど普通の学校に行けず、いつも院内学級で一人で居るせいか人付き合いが苦手で、俺以外に友達は居なかった。 彼女の…

赤ちゃん(フリー写真)

生まれてくれてありがとう

子供が2人居る。 でも本当は、私は3人の子持ちだ。 ※ 18歳の春に娘が生まれた。 結婚してくれると言っていた父親は、結局認知すらしてくれなかった。 若い私にとっ…

おにぎり(フリー写真)

二人の母

俺の母親は、俺が5歳の時に癌で亡くなった。 それから2年間、父と2歳年上の姉と三人暮らしをしていた。 俺が小学1年生の時のある日曜日、父が俺と姉に向かって 「今から二…

学校(フリー写真)

学生時代の思い出

俺が中学生の時の話。 当時はとにかく運動部の奴がモテた。 中でも成績が優秀な奴が集まっていたのがバスケ部だった。 気が弱くて肥満体の俺は、クラス替え当日から、バスケ部…

おばあさん(フリー素材)

ばあちゃんいつまでもげんきでね

ばあちゃんの痴呆症は日に日に進行し、ついに家族の顔も分からなくなった。 お袋のことは変わらず母ちゃんと呼んだが、それすらも自分の母親と思い込んでいるらしかった。 俺と親父は…

病室(フリー背景素材)

またどこかで会おうね

俺は以前、病院勤務をしていた。と言っても看護婦や医者などの有資格者じゃないんだけどね。 それでさ、掃除しようと思ってある病室に入ったんだよ。 よく知らずに入ったらさ、どうや…

手を握る(フリー写真)

仲直り

金持ちで顔もまあまあ。 何より明るくて突っ込みが上手く、ボケた方が 「俺、笑いの才能あるんじゃね」 と勘違いするほど(笑)。 彼の周りには常に笑いが絶えなかった…