母の持つ愛情

公開日: ちょっと切ない話 | 家族 | 恋愛 |

カップルの足(フリー写真)

当時の俺は大学一年、彼女は大学四年。忘れもしない三年前の出来事。

大学に入ってすぐ、俺は軟式野球のサークルに入った。

サークルのマネージャーの中に彼女が居た。

一目惚れをし、告白した。

振られ続けたが五回目にオーケーしてくれた。

しかし彼女の実家は地方にあり、卒業と同時に地元に帰ると言っていた。

3月まで普通のデートをしていたが、彼女は実家に帰ってしまった。

そして4月にある出来事があり、大学を辞めて働き始めた。

その頃はお互いの地元を行ったり来たりして、遠距離だがそれなりに幸せに過ごしていた。

昨年の夏に、初めて俺の母親に会わせた。

俺は幼少期に両親からネグレクト、虐待などを受けていて、父方の祖父母の家庭で育てられている。

彼女は俺の母親と一言、二言しか話す事もなく、その時は帰って行った。

俺の母親は、

「あの子はちょっと、苦手。全く話さない」

などと俺に話していたが、俺は、

「俺はこの人しかいないって思ってるし、別にオカンがどう思っていようが、俺の自由。

俺はいいけど、そう言う思いがあるならもう会わないし、今すぐ彼女に謝れ」

と言った。

彼女とは喧嘩も沢山していて、その度に仲直りをしていたが、昨年の秋に彼女から突然振られた。

飲み会で遅くなり、連絡もしなかった事もあるが、彼女は両親に、

「虐待を受けて来た子は、将来結婚をして子供を授かれば虐待をするから、○○(俺)とは離れなさい。それに育ちが悪いし、言葉遣いも悪い」

と言われたから別れると言った。

育ちが悪い事と言葉遣いが悪い事は自覚しているが、俺は産んでくれた両親には凄く感謝しているし、虐待を受けて来たからこそ今があるのだと、そう誇りに思っていた。

だが、虐待を受けて来た子は将来虐待をするというところが凄く引っかかり、悩んだ。

確かに俺の母親も、幼少期に同じような虐待を受けて来ていた。

でも、今は俺にして来た事を凄く後悔していた。

俺はいつも、

「確かに昔は恨んだけど、今は虐待を受けて来ていたからこそ、将来の夢が見つかった。感謝しているよ」

と言っていた。

しかしこれからの事を一番見ていて欲しい人に虐待の事を言われ、傷つき、別れた。

俺には妹が居て、妹と彼女は凄く仲が良かったので、別れた事を告げて理由を話した。

妹は母親にこの事を話し、母は彼女の連絡先を妹から聞いて連絡を取った。

「○○の事なんだけど、私は別れる別れないとかじゃなくて、あの子には、辛い思いを沢山させて来た。だけど、今を頑張って生きている。

それに、あの子はあの子なりにあなたの事を大切に想っていたんだよ。

私があなたを苦手だとあの子に言った時、あの子は俺が良ければそれで良い、あなたに謝れと言ったのに、あなたは両親に言われたから別れるの? あの子に失礼じゃない?」

と、泣きながら彼女に電話をしたらしい。

彼女は泣きながら、それを聞き終えると、俺に

「ごめんなさい」

とだけ連絡して来て、そのまま別れた。

その時に、俺は産んでもらった感謝だけではなく、ちゃんと俺を愛してくれていたのだと愛情を感じ、母親に感謝をした。

昨日、元彼女から久しぶりに連絡があり、思い出したので書きました。

関連記事

家族(フリー写真)

娘への遺言

レミオロメンの「3月9日」という曲が流れる度に、私は泣きそうになります。 両親は、私が10歳の時に事故死しました。 あの日は家族旅行に行っていました。 帰り道、高速…

瓦礫

震災と姑の愛

結婚当初、姑との関係は上手く噛み合わず、会う度に気疲れしていた。 意地悪されることはなかったが、実母とは違い、姑は喜怒哀楽を直接表現せず、シャキシャキとした仕事ぶりの看護士だっ…

誰もいない教室

彼女の「ごめんね」が届いた日

小学生のころ、私はいじめられていた。 きっかけは、私の消しゴムを勝手に使われたことだった。 それに怒った私に対して、相手は学年で一目置かれていた女子――いわゆる「ボス格」…

野良猫(フリー写真)

猫の痰助

11年前の2月、何も無い湖の駐車場に彼女と居ると、ガリガリの猫が寄って来た。 よろよろと俺たちの前に来ると、ペタンと地面に腹をつけて座った。 動物に無関心だった俺は『キタね…

コスモス

未来への手紙

家内を亡くしました。 お腹に第二子を宿した彼女が乗ったタクシーは、病院へ向かう途中、居眠り運転のトラックと激突し、彼女は即死でした。 警察からの連絡を聞いた時、酷い冗談だ…

アプリコット色の子犬

涙を拭いてくれたハナ

結婚して子どもができた後、ペットショップで、トイプードルでアプリコット色の子犬と出会い、一目惚れした。 子どもの環境にも良いと言い訳して家族に迎えた。 元々はチワワ好きだ…

ウェディングドレスを着た花嫁

大好きな娘へ

先日、俺の一人娘が嫁に行った。 目に入れても痛くない――。 そう自信を持って断言できるほど愛してきた、一人娘だった。 ※ 結婚式で娘は俺の前に立ち、はにかみな…

観覧車

再会のディズニーランド

その日は約束の時間ぎりぎりに、舞浜駅のホームから階段を駆け下りた。 雑踏の中で待っていたのは、元妻とミニリュックを背負った小学3年生の息子だった。 半年ぶりに会う息子は、…

散歩する親子(フリー写真)

家族三人で過ごした思い出

私の母親は、私が12歳の時に亡くなりました。 ただの風邪だったのに、入院してから1週間後にはもういなくなってしまったのです。 そして、父親も私が20歳の誕生日の1ヶ月後に…

父(フリー写真)

父と私と、ときどきおじさん

私が幼稚園、年少から年長頃の話である。 私には母と父が居り、3人暮らしであった。 今でも記憶にある、3人でのお風呂が幸せな家族の思い出であった。 父との思い出に、近…