パパに届けたくて

公開日: ちょっと切ない話 | 子供 | 家族

ママと娘

4歳になる娘が、「字を教えてほしい」と言ってきました。

正直、どうせすぐ飽きるだろうと思いながらも、毎晩少しずつ教えてあげるようになりました。

「あ」はこう書くんだよ。「い」はね、こうしてぐるっと…。

鉛筆を握る小さな手が、一生懸命に真似している姿が愛おしくて、なんだかんだで私も楽しい時間になっていました。

ある日、娘の通っている保育園の先生から電話がありました。

「○○ちゃんから、『神様に手紙を届けてほしい』って頼まれたんです」

そう言われ、こっそりとその手紙を読んでみたそうです。

そこには、たどたどしい文字でこう書かれていました。

「いいこにするので、ぱぱをかえしてください。おねがいします」

私はその言葉を聞いた瞬間、頭の中が真っ白になりました。

そして次の瞬間には、受話器を持ったまま涙が止まりませんでした。

先生も、電話の向こうで泣いていました。

旦那は、去年の秋、交通事故で他界しました。

まだ30代でした。あまりに突然すぎて、葬儀の日のこともよく覚えていません。

娘はまだ小さく、「パパはどこに行ったの?」と何度も聞いてきました。

私はそのたびに、「お空に行ったの」と答えるしかありませんでした。

字を覚えたかった理由。

それは、大好きなパパに手紙を書くためだったんです。

神様にお願いして、パパを返してほしい。

その一心で、小さな手で一文字一文字覚えていたんです。

最近、娘が明るい声でよく言っていました。

「もう少ししたら、パパ戻って来るんだよ〜」

私はそれを、子供らしい想像だと思っていました。

でも違いました。

娘の中では、それが本当に叶うことだと信じていたのです。

「字が書けたら、神様にお願いできる」と信じていたんです。

私の胸は張り裂けそうでした。

小さな娘の心が、どれほど寂しさを抱えていたのか。

言葉にしなかっただけで、どれほど我慢していたのか。

私は、写真の中で微笑む旦那の顔を見ながら、何度も涙をこらえました。

けれど、涙は止まりませんでした。

娘の願いも、私の想いも、すべて旦那に届いてほしいと、ただそれだけを願いました。


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