涙を拭いてくれたハナ

アプリコット色の子犬

結婚して子どもができた後、ペットショップで、トイプードルでアプリコット色の子犬と出会い、一目惚れした。

子どもの環境にも良いと言い訳して家族に迎えた。

元々はチワワ好きだったが、目が離せないほど可愛くて、名前はハナ。笑顔が小さな花みたいだから。

ハナは非常にお利口で、吠えたり咬んだりすることはなかった。人間が大好きで、どんな人にも愛想よく近づいた。

ハナが来てから2年後、離婚。親権争いに負けたが、ハナは常に俺を待ってくれて、ニコニコ尻尾を振っていた。一人で泣いている時には傍に来て涙を舐めてくれた。

その3年後、海外に転勤。その間ハナは実家に預けられていたが、会うたびに嬉しそうに振り返った。

その4年後、再婚。新しい奥さんにも愛情を示し、一緒に過ごすことを楽しんだ。

ハナは元気で、食べたり遊んだりすることが大好きだった。仕事が忙しくても、いつもニコニコしていた。

避妊手術を受けさせたが、手術後は少し太っても、元気でいた。

しかし、歳を重ねるにつれて、寝ている時間が増えた。健康診断で病気が見つかり、治療には多額の医療費が必要だったが、それでもハナのことを大切に思い続けた。

ハナの体調が悪化し、膵炎と診断された。治療を続けたが、医療費がかさんでいった。

ハナの苦しみを見て、生き延びることがどれほど辛いかを感じた。

最後の日、ハナの苦しみを和らげるために、家で看取ることを決めた。ハナが眠るように亡くなった朝、俺と奥さんが傍にいた。

ハナの骨壺を飾り、いつも一緒にいるようにした。涙が止まらなかったが、ハナの思い出を大切にしている。

今はハナを思い出しながら生活しているが、悲しみよりも、楽しい思い出を思い出すようになってきた。

ハナの存在は俺にとって大切なものであり、ハナがいた時間は孤独を感じずに済んだ日々だった。

今は新しい子犬を迎え、ハナと同じクリーム色だ。時々、ハナの骨壺の前で立ち止まり、話しかけている。

ハナ、大好きだよ。幸せな天国で過ごしているかな。待ってるから、いつでも帰っておいで。

関連記事

雲海(フリー写真)

命綱を譲った男性

1982年1月13日16時1分頃、ワシントン国際空港を激しい吹雪のなか離陸したエア・フロリダ90便が、離陸直後に氷結したポトマック川に架かる橋梁に激突・墜落した。 水没を免れた…

桜(フリー写真)

優しい彼の嘘

私には付き合って一年の彼氏がいました。 その彼氏(Sとします)には持病があり、心臓を患っていました。 一緒にご飯を食べていると胸を押さえて苦しがったり、偶に倒れたり、何度も…

ベトナムの夕日(フリー写真)

あの子は僕の友達なんです

ベトナムの村にある宣教師たちの運営する孤児院が、爆撃を受けてしまいました。 宣教師達と二人の子供達が即死し、その他の者も重傷を負いました。 重傷になった者達の中でも、8才の…

雨の日の紫陽花(フリー写真)

いってらっしゃい

もう二十年ほど前の話です。 私が小さい頃に親が離婚しました。 どちらの親も私を引き取ろうとせず、施設に預けられ育ちました。 そして三歳くらいの時に、今の親にもらわれた…

花(フリー写真)

母の匂いと記憶

先日、母の日に実家へ帰った時、ジョイントを持って行った。 兄に子供が生まれた関係で家は禁煙になっていて、俺の部屋も物置き状態。 母親の隣で寝る事になったんだけど、何か気恥ず…

夕日(フリー写真)

戦時中のパラオにて

遠い南の島に、日本の歌を歌う老人が居た。 「あそこでみんな、死んで行ったんだ…」 沖に浮かぶ島を指差しながら、老人は呟いた。 ※ 太平洋戦争の時、その島には日本軍が進駐…

飛行機雲(フリー写真)

きっと天国では

二十歳でヨーロッパに旅をした時の実話をいっちょう。 ルフトハンザの国内線に乗ってフランクフルト上空に居た時、隣に座っていたアメリカ人のじい様に話し掛けられた。 日本は良い国…

赤ちゃん(フリー写真)

本当に価値がある存在

君がママのお腹に居ると判った時、ママは涙ぐんでいた。 妊娠したと聞いて僕は、 「おーそうか」 なんて冷静に言おうとしたけど、すぐに涙が出たんだ。 決して口には出…

田舎の風景(フリー写真)

せめて届かないだろうか

葬式、行けなくてゴメン。 マジでゴメン。 行かなかったことに言い訳できないけどさ、せめてものお詫びに、お前んちの裏の山に登って来たんだ。 工事用の岩の間に作った基地さ…

飲食店の席(フリー写真)

ファミレスの父娘

ファミレスで一人ご飯を食べていたら、前のテーブルからおっさんと女子高生の会話が聞こえて来た。 おっさんはスーツ姿で普通の中年。痩せていて、東幹久さんに似た雰囲気。会話の流れから父…