
私の彼氏は、もうこの世にいません。
希少がんという、稀にしか見つからない病気でした。
彼は、我慢強くて、なかなか弱音を吐けない人でした。
それでも、陽気で明るくて、とても強い、そんな人でした。
※
彼の病気が見つかったのは、小学四年生のときでした。
その時すでに、がんはステージ3。
治るかどうか分からない、厳しい状況だったそうです。
それでも彼は、治すために懸命に治療に耐えました。
つらくて、何度も吐いていた。
めったに泣かない人なのに、涙をこぼすこともありました。
そんな姿を見るのは、ほんとうに胸が苦しかった。
※
それでも彼は、ずっと前を向いて頑張っていました。
でも、小学六年生の1月。
お医者さんから「もう使える薬はありません」と告げられました。
それを聞いた彼は、こう言ったのです。
「最後くらい、好きなことしたい」
※
それからの二ヶ月間、彼と私は、たくさんの時間を過ごしました。
病院の中をふたりで歩き回ったり、
ベッドの上でいろんな話をしたり、
外の風に触れることもありました。
「俺のせいで、デートに行けなくてごめん」
そう言って笑った彼の顔が、今でも忘れられません。
その笑顔を見るだけで、私はとても幸せでした。
安心できました。
※
でも私は知っていました。
彼が、私に見えないところで、何度も泣いていたことを。
誰よりも強くて、優しくて、誰にも弱さを見せなかった彼が、
ひとりで、どれほどの痛みを抱えていたのか。
私も、痛みを半分こできたらよかったのに。
辛さを、少しでも分けてくれたらよかったのに。
なのに私は、ただそばにいることしかできなくて。
本当に、なんにもできない彼女で、ごめんね。
※
彼が、最後に私にお願いしてくれたことがありました。
「中学校の制服を着て、中学校に行きたい」
でも、その願いは叶えてあげられなかった。
ごめんね。
あと2日だったのに。
2日後には、入学式だったのに。
神様、どうしてあと2日だけ、時間をくれなかったの?
私たち、もう少しだけ一緒にいたかっただけなのに。
※
こうせいは、私の誕生日に、天国へ旅立ちました。
彼は、ちゃんと約束を守ってくれたのに。
私は、守れなかった。
本当にごめんなさい。
でも、私にはひとつ、彼と約束したことがあります。
「私、お医者さんになるから」
この約束だけは、必ず守ります。
※
光生。
あなたの名前の通り、あなたは光でした。
生きていることそのものが、まるで光みたいだった。
私は、あなたの光を胸に生きていきます。
こんな彼女で、本当にごめんね。
でも、ずっとあなたのことを愛しています。