あと二日で叶った願い

公開日: ちょっと切ない話 | 恋愛

悲しむ少女

私の彼氏は、もうこの世にいません。

希少がんという、稀にしか見つからない病気でした。

彼は、我慢強くて、なかなか弱音を吐けない人でした。

それでも、陽気で明るくて、とても強い、そんな人でした。

彼の病気が見つかったのは、小学四年生のときでした。

その時すでに、がんはステージ3。

治るかどうか分からない、厳しい状況だったそうです。

それでも彼は、治すために懸命に治療に耐えました。

つらくて、何度も吐いていた。

めったに泣かない人なのに、涙をこぼすこともありました。

そんな姿を見るのは、ほんとうに胸が苦しかった。

それでも彼は、ずっと前を向いて頑張っていました。

でも、小学六年生の1月。

お医者さんから「もう使える薬はありません」と告げられました。

それを聞いた彼は、こう言ったのです。

「最後くらい、好きなことしたい」

それからの二ヶ月間、彼と私は、たくさんの時間を過ごしました。

病院の中をふたりで歩き回ったり、

ベッドの上でいろんな話をしたり、

外の風に触れることもありました。

「俺のせいで、デートに行けなくてごめん」

そう言って笑った彼の顔が、今でも忘れられません。

その笑顔を見るだけで、私はとても幸せでした。

安心できました。

でも私は知っていました。

彼が、私に見えないところで、何度も泣いていたことを。

誰よりも強くて、優しくて、誰にも弱さを見せなかった彼が、

ひとりで、どれほどの痛みを抱えていたのか。

私も、痛みを半分こできたらよかったのに。

辛さを、少しでも分けてくれたらよかったのに。

なのに私は、ただそばにいることしかできなくて。

本当に、なんにもできない彼女で、ごめんね。

彼が、最後に私にお願いしてくれたことがありました。

「中学校の制服を着て、中学校に行きたい」

でも、その願いは叶えてあげられなかった。

ごめんね。

あと2日だったのに。

2日後には、入学式だったのに。

神様、どうしてあと2日だけ、時間をくれなかったの?

私たち、もう少しだけ一緒にいたかっただけなのに。

こうせいは、私の誕生日に、天国へ旅立ちました。

彼は、ちゃんと約束を守ってくれたのに。

私は、守れなかった。

本当にごめんなさい。

でも、私にはひとつ、彼と約束したことがあります。

「私、お医者さんになるから」

この約束だけは、必ず守ります。

光生。

あなたの名前の通り、あなたは光でした。

生きていることそのものが、まるで光みたいだった。

私は、あなたの光を胸に生きていきます。

こんな彼女で、本当にごめんね。

でも、ずっとあなたのことを愛しています。


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