神戸からの少女

廃墟

2年前、旅行先の駐屯地祭での出来事です。

例によって、特定の市民団体が来場し、場の雰囲気が少し重たくなっていました。そのとき、女子高生と思しき一人の少女がその団体に向かって歩いて行きました。

少女は声を強くして問いかけました。「あんたら地元の人間か?」

団体のメンバーは「私たちは全国から集まった市民団体で…」と答えましたが、少女はさらに詰め寄りました。「で、何しに来たんや?」

団体が「憲法違反である自衛隊賛美に繋がる…」と答えると、少女は自分の胸元を指さして言いました。「私は神戸の人間や。はるばる電車に乗って何しにここまで来たか解るか?」

団体の人々が困惑していると、少女は続けました。「地震で埋もれた家族を助けてくれたのは、ここの部隊の人や。寒い中ご飯を作ってくれて、風呂も沸かしてくれて、夜は夜で槍を持ってパトロールしてくれたのも、ここの部隊の人や。私は、その人たちにお礼を言いに来たんや。あんたらに解るか?消防車が来ても通り過ぎるだけの絶望感が。でもここの人らは歩いて来てくれはったんや…」

最初は怒り気味に話し始めた少女の声は、次第に涙声に変わっていきました。彼女の言葉には、地元を守る自衛隊員への深い感謝が込められていました。

この出来事は非常に印象的で、今でもはっきりと覚えています。団体は撤退しました。

少女が門をくぐった時、守衛の方は彼女に社交辞令の軽い敬礼ではなく、直立不動のまま真剣な敬礼をしました。その一挙手一投足からも、彼女の言葉がどれほど真摯に受け止められたかが伝わってきました。

関連記事

卵焼き(フリー写真)

とうちゃんの卵焼き

この前、息子の通う保育園で遠足があった。 弁当持参だったのだが、嫁が出産のため入院していたため、俺が作ることになった。 飯を炊くくらいしかしたことがないのに、弁当なんて無理…

親子の手

またあなたの子供になりたい

私が6歳のとき、父が再婚し、新しい母親がやって来ました。 「今日からこの人がお前のお母さんだ」と父が紹介したその日から、彼女は私を本当の子供のように可愛がってくれました。 …

手話(フリーイラスト素材)

手話の先生

小学生の頃、難聴の子がクラスに居た。 補聴器を付ければ普通学級でも問題無い程度の難聴の子だった。 彼女はめちゃくちゃ内気で、イジメられこそしていなかったけど、友達は居なかっ…

夫婦の手(フリー写真)

私は幸せでした

文才が無いため酷い文になると思いますが、少し私の話に付き合ってください。 24歳の時、私は人生のどん底に居ました。 6年間も付き合って婚約までした彼には、私の高校時代の友人…

夜のビジネス街

強面上司の不器用な優しさ

いつからだろうか、自分でも理由が分からないほど、仕事への意欲を失ってしまっていた。 会社を休み始め、気付けば数日が経っていた。 そんなある日の夜、玄関のチャイムが鳴った。…

父

不器用な父の宝物

うちの父は、何だかちょっと変わった人だ。 家事はまったくしないし、気に入らないことがあると、黙り込んで口をきかなくなる。 まるで子供のように、わがままで頑固だ。 甘…

Wii(フリー写真)

ゲーム好きな友人

俺の友達に、凄くゲーム好きなやつがいたんだよ。 ドラクエなどのゲームを誰よりも先に解いたり、俺たちにヒントをくれたりさ。 でも中学2年生の時にそいつは事故に遭い、右手を失く…

美しい人生(フリー写真)

お帰りなさい

マニュエル・ガルシアは元気で頼もしく、近所でも働き者と評判の父親だった。 妻に、子供に、仕事に、将来、全て計画通りに運んでいた。 ある日、マニュエル・ガルシアは腹の痛みを訴…

バラの花束(フリー写真)

大きなバラの花束

接客を何年か担当してくれていた優秀な女性スタッフが、その店を辞めることになった。 店長は、一生懸命仕事をしてくれた彼女に何かお礼がしたかった。 いよいよ彼女の最後の出勤の日…

零戦(フリー写真)

特攻隊の父の願い

素子、素子は私の顔をよく見て笑ひましたよ。 私の腕の中で眠りもしたし、またお風呂に入ったこともありました。 素子が大きくなって私のことが知りたい時は、お前のお母さん、住代…