父が捨てなかった種袋
父の種袋には、売れ残りの古い種が入っているのだと思っていました。無口な父を見送り、二十四で小さな種苗店を継いだ春、私は触るなと言われた一番上の棚に手を伸ばします…
家族のことを書いた話は、どれも胸に刺さります。当たり前すぎて気づかなかった愛情、不器用すぎて伝わらなかった気持ち、もう会えない人のことを思い出す瞬間。父、母、子供、祖父母——家族にまつわる感動する話をお届けします。
父の種袋には、売れ残りの古い種が入っているのだと思っていました。無口な父を見送り、二十四で小さな種苗店を継いだ春、私は触るなと言われた一番上の棚に手を伸ばします…
父が遺した十七の巣箱のうち、一箱だけがいつも空だった。三年ぶりに雪を掘り返した私を待っていたのは、いつのまにか増えた三つの箱と、十六の夏にこの高原へ来た青年の話…
三年ぶりに帰った実家で、祖母のラジオは今日も雑音だけを流していました。二人きりの食卓なのに、祖母は毎晩きまって大根を四つに切ります。その四つ目が誰の分なのかを知…
十九で畳屋に嫁いだ私は、十年ものあいだ仕事場に入れてもらえなかった。義母は褒めず、教えず、座敷の上座の一枚だけを誰にも踏ませなかった。二十六年ぶりに畳を上げ替え…
継母の買い物メモは、いつも大根と卵の絵だった——静かに沁みる泣ける話。東京の大学へ行くと告げた夜に母が言った「うちには読めん」の本当の意味を、わたしは三十八年間…
昭和四十三年の瀬戸内、造船の町。船大工の俺は時化で兄夫婦を失い、遺された甥の修を四年育てた。その修が静かに眠り、削りかけの賽子だけが作業台に残る。半年後、納屋に…
昭和四十四年の豪雪の峠。乗合バスが横転し、七歳の姪は座席の下に閉じ込められた。半狂乱の私を救い出したのは、黄色い合羽の若い除雪作業員だった。背中を裂かれながら笑…
海辺の町の小さなプラネタリウムで星を映す私と、心臓の弱い幼い少女ほのか。名もない星に名前をつけたあの子が、落とした星座ノートの最後の頁にそっと描き残していたもの…
昭和の岬に立つ灯台守の爺が、亡き娘の忘れ形見の孫を、しょっぱい味噌汁と誕生日ごとに彫った木彫りの小舟で、四十年かけて育て上げた。孫を初めての長い航海へ送り出す朝…
駅前の小さな時計店を継いだ婿の俺と、一度も直し方を教えてくれない不器用な義父。国家試験の合格を病室から不器用に祝う電話と、義父が四十年止めたままの形見の振り子時…
城下町の若い庭師が、亡き親方の忘れ形見である血の繋がらない娘を、ひとりで育てた三十数年の物語。世間の疑いの目に耐え抜いた不器用な父娘の絆は、娘が嫁ぐ日の一通の手…
昭和の信州の宿場町を舞台にした泣ける話。峠の鍛冶屋として生きる私は、生き別れた父の顔を知らずに育った。ある雪の夜、村に担ぎ込まれた行き倒れの老人の巾着には、幼い…
幼い日に両親と離れ、美濃の和傘の里で無口な祖父に引き取られた私。都会の子だった私は里に馴染めなかった。店を閉じる雨の日、蔵の奥から出てきた、あかね色の糸でかがっ…
教壇を下りて独りになった七十代の元教師の私に、孫の太一がくれた小さな砂時計の三分。音読が苦手で心臓の弱いあの子と、平成初期の縁側で一冊の本を読みあった日々。別れ…
昭和の織物の町で、無口な機織りの伯母に育てられた私。家業を継ぐのを拒み、ひどい言葉を投げつけた後、伯母は病に倒れた。和解できぬまま迎えた別れの間際、震える手で渡…