俺の夢

公開日: 兄弟姉妹 | 心温まる話

乾杯(フリー写真)

僕達兄弟には元々親が居らず、養護施設で育ちました。

3つ上の兄は、中学を出るとすぐに鳶の住み込みで見習いになり、その給料は全て貯金していました。

そのお金で僕は私立の高校を出て、そして大学にも行けました。

やがて小さな会社ですが就職も決まり、兄への感謝を込めて温泉旅行に連れて行きました。

ビールで上機嫌の兄に、

「あんちゃん、ありがとう。あんちゃんも遊びたかっただろう?」

と言うと、

「お前、憶えてねえんか?

『あんちゃん、俺、しあわせになりてえ』って、小6の時に言ったろ?

それで決めたんだ。

なーんも辛くなかったけど、お前を『しあわせ』にしてやるのが俺の夢だったかんな」

自分ではそんなことを言ったなんて憶えていません。

思春期には金髪で人相も悪く、マナーの悪い兄を恥ずかしく思い、そんな兄に学校へ行かせてもらうことへの憤りすら感じていました。

その晩は、23歳と26歳の兄弟が布団で抱き合って眠りました。

8年前のことですが、ネタじゃないんですよ。

本当の話です。

関連記事

おむすび(フリー写真)

母の意志

僕が看取った患者さんに、スキルス胃がんに罹った女性の方が居ました。 余命3ヶ月と診断され、彼女はある病院の緩和ケア病棟にやって来ました。 ある日、病室のベランダでお茶を飲み…

猫(フリー写真)

父を護衛する猫

父が突然亡くなった。 うちの猫のみぃは、父の行く先行く先に付いて行く猫だった。 「こいつはいつも俺の後を付いて来るんだ。俺の護衛なんだ」 と父は生前、少し自慢気に言っ…

恋

無音の世界で芽生えた恋

五年前の冬の朝。 出動指令の無線が車内に響き、私たち消防隊は病院火災の現場へ走った。 空気は乾ききり、到着したときには二階の窓から黄炎が噴き上がっていた。 ※ …

震災の日

サンタから預かったDS

私は、宮城県に住んでいる。 その日も朝から、寒空の下、スーパーの前に長い列ができていた。 並んでいた私の前には、母親と、泣きべそをかいた小さな男の子がいた。 ※ …

手を繋ぐカップル(フリー写真)

幸せの在り処

もう五年も前になる。 当時無職だった俺に彼女が出来た。 彼女の悩みを聞いてあげたのが切っ掛けだった。 正直、他人事だと思って調子の良いことを言っていただけだったが、彼…

手紙

パパ、本当にありがとう

俺が30歳のとき、一つ年下の女性と結婚した。今では、娘が三人と息子が一人。 長女は19歳、次女は17歳、三女が12歳。長男は10歳。 この話をすると、よく聞かれるのが――…

駅のホーム(フリー写真)

花束を持ったおじいちゃん

7時16分。 私は毎日、その電車に乗って通学する。 今から話すのは、私が高校生の時に出会った、あるおじいちゃんとのお話です。 ※ その日は7時16分の電車に乗るまでまだ…

工事現場(フリー写真)

鳶職の父

公用で M高校へ出かけたある日のことだった。 校長先生が私達を呼び止められ、 「もし時間がありましたらお見せしたいものがありますので、校長室までお越しください」 と…

桜

再会と再出発

3年前、私は桜が開花し始める頃に自殺を考えていました。失恋、借金、会社の倒産と様々な問題が重なり、絶望していたのです。両親とも絶縁状態で、孤独を感じていました。 最後に何か美味…

手紙(フリー写真)

生きて欲しかった

私は高校2年生です。 去年、3つ下の妹が自殺しました。 妹はいつも笑顔で『悩みなんてない!』みたいな子でした。 妹は成績は散々だったけど、コミュニケーションが苦手な…