カーブ!
今はお通夜の最中です。兄貴が死にました。
4つ年上の兄貴は40歳の若さで、この世を去りました。胃癌でした。
私の家は母子家庭でした。だから初めて野球を教えてくれたのは、親父ではなく兄貴でした。
新聞配達をして貯めたお金で、私が小学4年生の時にグローブを買ってくれました。SSKの安いトンボ目のグローブでした。
中学生の癖に小学生相手に剛速球を投げ、取れないと怒鳴る奴でした。
「カーブ!」と一声。
私に投げられたボールは、手前で私の視界から消えました。
私の中では、江夏、堀内を凌ぐピッチャーでした。
近くの公園で日が暮れるまで、キャッチボールをしました。
※
「まこ、兄ちゃんがお前の親父代わりだから、兄ちゃんがお前を大学に行かせてやる!」
少しばかり成績の良かった私に、高校を卒業した兄はそう言いました。
貧しかった我が家の家計を考えてのことだったと思います。
おかげで私は大学を出させてもらいました。本当に感謝するべきことなのです。
しかし大学卒業後に家を出た私は、兄の恩を忘れていたのでしょうか。
私は上場会社で課長になり、兄貴は自営業とは言え、従業員は兄の妻を含め3名の零細企業です。
いつの間にか、兄を見下していた気がします。
何様なんだよ、お前は…。
そう自分を自分で罵ることしか出来ません。
※
「カーブ!」
にいちゃん、にいちゃん、もう一度で良いから、カーブを投げて欲しいです。
私は、あなたの弟に生まれて本当に良かった。