恐かった父

公開日: ちょっと切ない話 | 家族 |

ビール(フリー写真)

私の父は無口で頑固で本当に恐くて、親戚中が一目置いている人でした。

家に行ってもいつもお酒を飲んでいて、その横で母が忙しなく動いていた記憶があります。

私が結婚する事になり、ドキドキしながら主人を連れて行った時も、ずっと黙ったままでした。

やっと口を開いたと思えば、

「ビールは何を飲むんや?」

というぶっきら棒な一言。

その日は何とか無事に終わり、式の当日は終始酒を注ぎに回っていました。

その後、私は子供が生まれて少し育児ノイローゼ気味になっていました。

それを見た父が何故か毎日、孫の世話をしに来るようになりました。

父は当然子供の面倒など見た事が無いので、する事が滅茶苦茶。

苛々していた私は、嫌味ばかり言ってしまいました。

そして2ヶ月後、あまり調子が良くないと言っていた矢先、他界しました。

何でもっと優しくしてあげなかったんだろう?

紙オムツの仕方を聞かれて、

「それぐらい解るでしょ」

なんて、どうして冷たく言っちゃったんだろう?

あの日、自分でどうにかしようと思ったらしく、変な形になったオムツが残されていました…。

その後、父が毎日付けていた日記が見つかりました。

式の当日のページを開くと、

「あのバカ娘がとうとう嫁に行った。最後の挨拶では涙が出た。幸せになれ」

と書いてありました。

おまけに家には、主人があの日答えた『アサヒビール』が、押入れ一杯に詰められていました。

関連記事

野球ボール(フリー写真)

父と息子のキャッチボール

私の父は高校の時、野球部の投手として甲子園を目指したそうです。 「地区大会の決勝で9回に逆転され、あと一歩のところで甲子園に出ることができなかった」 と、小さい頃によく聞か…

夫婦

新しい一年目

俺と嫁は、高校のときからの付き合いだった。きっかけは、同じ委員会に所属したことだった。 高校の文化祭で、俺と嫁は同じ仕事を任され、準備から後片付けまで約一ヶ月間、一緒に作業した…

皺のある手(フリー写真)

私はおばあちゃんの子だよ

私は幼い時に両親が離婚して、父方の祖父母の家に引き取られ育てられました。 田舎だったので、都会で育った私とは周りの話し方から着る服、履く靴まで全てが違いました。 そのため祖…

女性の後ろ姿

君がくれた、小さな勇気

初めて彼女に会ったのは、内定式のときだった。同期として顔を合わせた。 聡明を絵に描いたような人だった。学生時代に書いた論文か何かが賞を獲ったらしく、期待の新人として注目されてい…

学校の机(フリー写真)

君が居なかったら

僕は小さい頃に両親に捨てられ、色々な所を転々として生きてきました。 小さい頃には「施設の子」とか「いつも同じ服を着た乞食」などと言われました。 偶に同級生の子と遊んでいて、…

誓いの言葉

花嫁姿を見せたくて

大学生の頃、仲の良かった友人のAちゃんは、同じ大学の彼氏B君と同棲を始めました。まだ若かったふたりに、両親は「結婚はまだ早い。責任ある交際を」と諭していました。 そんなある日—…

夫婦(フリー写真)

幸せなことは何度でもある

結婚5年目に、ようやく待ちに待った子供が産まれた。 2年経って子供に障害があることが判明し、何もかもが嫌になって子供と死のうと思った。 そしたら旦那がメールが届いた。 ※…

オフィス(フリー写真)

苦手だった部長

その時の部長は凄く冷たくて、いつもインテリ独特のオーラを張り巡らせている人だった。 飲みに誘っても来ることは無いし、忘年会などでも一人で淡々と飲むようなタイプ。 俺はよく怒…

スマホ

傷つけて気づいた愛

私は4年間、妻を裏切り続けた。ネットで出会った女性との不倫関係に溺れていたのだ。彼女との関係は、私がずる賢く立ち回り、妻には秘密のまま続いていた。妻はいつも遅い帰宅にも笑顔で迎えてく…

裁縫(フリー写真)

妹に作った妖精衣装

俺には妹が居るんだが、これが何と10歳も年が離れている。 しかも俺が13歳、妹が3歳の時に母親が死んでしまったので、俺が母親代わり(父親は生きているから)みたいなものだった。 …