春一番と親切なカップル

公開日: 仕事 | 心温まる話

桜(フリー写真)

春一番が吹き荒れた日。

本当に物凄い強風で、その日は朝から店の看板が倒れたりトラブル続きで、ずっと落ち着かず疲れ切っていた。

そんな時、若いカップルのレジをしていると、彼氏の方が

「駐車場の段ボールが飛び散って迷惑なんですけど。あのままにしておいていいんですか?」

と少し怒りながら言って来た。こちらも疲れ切ってイライラしていたので、

「申し訳ございません。今すぐ片付けます」

と適当にその場を収め、嫌々強風の吹き荒れる外へ出て駐車場を見たら、見事に段ボールが一面に散らばり舞っていた。

片付けるにも、その最中も強風が吹き止むはずも無く、気の遠くなるような作業だった。

もうこのまま放って置けばどっか行くだろ…なんて思いながら掻き集めていたら、後ろから

「すみません、これ…」

と、さっきのカップルの彼女の方が、私より遥か多くの段ボールを抱えて立っていた。

くるくる綺麗に巻いた髪がボサボサになっていた。

ひらひらの綺麗なワンピースを着ているのに、汚い段ボールを胸いっぱいに抱えていた。

その後ろには彼氏が、段ボールを沢山抱えて立っていた。

自分がとても恥ずかしくなった。

申し訳ない気持ちで一杯になった。

カップルから段ボールを受け取り、深々とお辞儀をすることしか出来なかった。

関連記事

手を繋いで歩く夫婦(フリー写真)

たった一つの記憶

私の夫は、結婚する前に脳の病気で倒れてしまい、死の淵を彷徨いました。 私がそれを知ったのは、倒れてから5日も経ってからでした。 夫の家族が病院に駆け付け、携帯電話を見て私の…

月明かり(フリー写真)

お月さんの下で

昨日、彼女の家の犬が死んだ。 彼女の家は昔、彼女の兄貴が高校生という若さで自殺してから、両親も彼女もうつ病になって酷い状態だったらしい。 そんな時に引き取って来た犬だったそ…

南国の空

背中を押してくれた人

仕事でどうしようもないミスをしてしまい、次の日に出勤するのがどうしても嫌で、気持ちが塞ぎ込んでいた時のことだった。 家に帰る気にもなれず、仕事帰りに普段は使わない電車に乗って、…

皺のある手(フリー写真)

私はおばあちゃんの子だよ

私は幼い時に両親が離婚して、父方の祖父母の家に引き取られ育てられました。 田舎だったので、都会で育った私とは周りの話し方から着る服、履く靴まで全てが違いました。 そのため祖…

駅のホーム(フリー写真)

花束を持ったおじいちゃん

7時16分。 私は毎日、その電車に乗って通学する。 今から話すのは、私が高校生の時に出会った、あるおじいちゃんとのお話です。 ※ その日は7時16分の電車に乗るまでまだ…

飲食店の席(フリー写真)

ファミレスの父娘

ファミレスで一人ご飯を食べていたら、前のテーブルからおっさんと女子高生の会話が聞こえて来た。 おっさんはスーツ姿で普通の中年。痩せていて、東幹久さんに似た雰囲気。会話の流れから父…

病室

足りない時間

私は医師として、人の死に接する機会が少なくありません。しかし、ある日の診察が、私の心を特別に痛めつけました。 少し前、一人の若者に余命宣告をすることになりました。 「誠に…

花嫁

父と歩む未来

私の幼い日の夢は、お父さんのお嫁さんになることでした。お父さんが大好きで、嫌いと思ったこともなく、他の友達よりもずっと仲が良かったと思います。 しかし、高校3年の時、進学につい…

朝の空

天使になった少女

私が看護学生だった頃の話です。 ある休日、友達と遊びに行った帰り道で、突然、目の前で交通事故が起こりました。 ひとりの小さな女の子が車に撥ねられ、道路に倒れていたのです。…

コーヒー

父の献身

私の両親は小さな喫茶店を営んでいて、私はその一人娘です。父は中卒ですが、非常に真面目な人でした。 バブルが弾け景気が悪化すると、父は仕事の合間にお店を母に任せ、バイトを始めまし…