十円玉の価値

公開日: 心温まる話

公衆電話(フリー写真)

この話は実話で、私はこの話を読む度に『価値観』や『解釈』は人によって違うことを深く感じます。

その子は、生まれながら知的障害者でした。

幼稚園は近所の子供たちと一緒に通っていましたが、小学校に上がるとちょくちょく学校を休むようになりました。

一年生が終わる頃には、全く学校へ行かなくなってしまったそうです。

二年生になっても、三年生になってもその子は、学校に行こうとはしませんでした。

そして四年生に上がる頃、父親と母親が話し合って、養護学校に預ける事にしました。

養護学校には寮のようなものがあり、家に帰る事は出来ませんでした。

四年生で入ったその子は、一年生の学習から始めなければなりませんでした。

専門の先生が、主要教科を一対一で丁寧に教えて行きました。

その日に習った新しい事を、毎日毎日、その子は母親に電話で報告していました。

ほんの少しずつではありましたが、一年間でその子は沢山の事を学び、覚えて行きました。

ある日の事です。

その子をずっと教えていた先生が、算数を教えようとしてお金の問題を出しました。

「ここに、五百円玉、百円玉、十円玉、三つのお金があります。

どのお金が、一番大きなお金ですか?」

と、その子に質問しました。するとその子は、

「十円玉」

と答えるのです。先生は、

「五百円なのよ」

と教えましたが、同じ問題を繰り返しても、どうしてもその子は

「十円玉」

と答えてしまうのです。

何度繰り返しても、やはり答えは十円玉だったので、先生は、

「五百円玉と百円玉と十円玉では、五百円玉が一番沢山の物が買えるのよ。

だから、一番大きいのは五百円玉でしょ?」

と言うのですが、その子はどうしても違う、十円玉だと言うので、先生は

「それじゃ、十円玉の方が大きいと思う訳を言ってごらん」

と言ったそうです。

するとその子は、

「十円玉は、電話が出来るお金。

電話をするとお母さんの声が聞けるの!」

と話したそうです。

関連記事

女の子

父と娘、静かな再会

ファミレスで、一人で食事をしていたときだった。 ふと、前のテーブルから聞こえてきた会話に耳がとまった。 そこにいたのは、スーツ姿の中年男性と、制服を着た女子高生。 …

空の太陽(フリー写真)

祖父が立てた誓い

三年前に死んだ祖父は、末期癌になっても一切治療を拒み、医者や看護婦が顔を歪めるほどの苦痛に耐えながら死んだ。 体中に癌が転移し、せめて痛みを和らげる治療(非延命)をと、息子(父)…

太陽(フリー写真)

一身独立

私が小さな建築関係のメーカーの担当営業をしていた頃の話です。 私の担当区域には、小さな個人商店がありました。 先代の社長を亡くし、若くして社長になった社長には二人の男の子が…

機関車(フリー写真)

モンロヴィアへ

太平洋戦争が終わって間もない頃、彼女は単身ニューヨークに留学しました。 ところが、待っていたのは人種差別…。 栄養失調と精神的プレッシャーが重なり、肺結核に罹ってしまったの…

老夫婦(フリー写真)

夫婦の最期の時間

福岡市の臨海地区にある総合病院。 周囲の繁華街はクリスマス商戦の真っ只中でしたが、病院の玄関には大陸からの冷たい寒気が、潮風となって吹き込んでいたと思います。 そんな夕暮れ…

昼寝中の猫(フリー写真)

ずうずうしい野良猫

お悩み相談 Q. 通って来る野良猫が大変ずうずうしく、困っています。 始めは家の外でみゃーみゃー鳴いて飯をねだる程度だったのですが、この寒空の下では辛かろうと一度玄関に泊め…

夫婦の重ねる手(フリー写真)

妻からの初メール

不倫していた。 4年間も妻を裏切り続けていた。 ネットで出会った彼女。 最初は軽い気持ちで逢い、次第にお互いの身体に溺れて行った。 ずる賢く立ち回ったこともあり…

差し伸べる手(フリー写真)

俺を育ててくれた兄貴

俺を育ててくれた兄貴が正月に結婚したんだ。 兄貴と言っても、血は繋がっていないけれど。 ※ 自分が5歳の時に親父が死んでから、母親が女手一つで育ててくれた。 親父と結婚…

おでこを当てる父と娘(フリー写真)

もうおねえさんだから

7ヶ月前に妻が他界して初めて迎えた、娘の4歳の誕生日。 今日は休みを取って朝から娘と二人、妻の墓参りに出掛けて来た。 妻の死後、暫くはあんなに 「ままにあいたい」「ま…

卵焼き(フリー写真)

とうちゃんの卵焼き

この前、息子の通う保育園で遠足があった。 弁当持参だったのだが、嫁が出産のため入院していたため、俺が作ることになった。 飯を炊くくらいしかしたことがないのに、弁当なんて無理…