伯母が呼ばなかった猫の名
猫と家族の泣ける話。昭和四十七年、雪深い町の活版印刷所で、文選工の伯母は私が拾った子猫の名を十年間ただの一度も呼ばなかった。情のない人だと思っていた。前掛けに入…
猫と家族の泣ける話。昭和四十七年、雪深い町の活版印刷所で、文選工の伯母は私が拾った子猫の名を十年間ただの一度も呼ばなかった。情のない人だと思っていた。前掛けに入…
昭和の終わり、雪深い町の小学校。給湯室の窓辺に牛乳を出すようになった冬から、桟には茶のボタンが一つずつ置かれるようになった。猫の恩返しだと二十年思い込んでいた。…
師走の命日の朝、老陶芸家は窯の余熱の前で震える子猫を見つけた。亡き妻の形見の浅鉢に水を入れてやりながら、その名を「備前」と呼んだ。小さな命が運んできた、日常の温…
亡くなった兄の研究ノートが、五年経って横浜のパン屋に届いた。最後のページに書かれていたのは、妹に宛てた静かな祈りだった。猫の首輪に揺れる銀の鈴の音と共に、無口な…
七年ぶりに帰省した拓也を待っていたのは、老いた三毛猫と、縫い物かごの中の三十一個のお手玉だった。祖母の無言の愛情に気づいたとき、涙が止まらなかった。…
定年になったら一緒にいてやる。そう思い続けた十五年間、猫のチビはずっと玄関で帰りを待っていた。でも、私が戻ったとき、チビはもうそこにいなかった。…
岡山・蒜山高原で酪農を営んでいた母は、牛舎のラジオを二十一年ものあいだ、ただの一度も消しませんでした。目を潰されて捨てられ、声を失った猫ナギ。十一年帰らなかった…
新潟の町の裏で拾った、耳の折れた白い猫。首には大きなしこりがあり、余命は一ヶ月と告げられた。その子は毎朝きまって五時の座布団に座り、戸の外をじっと見ていた。五週…
秩父の国道沿いのコンビニで深夜勤をしていた頃、午前三時に必ず猫の缶とコーヒーを買っていく人がいました。缶だけは決して袋に入れさせない理由と、仕事を辞めた四年後も…
転校先の諏訪の寒天場で、亡くなった前の住人の白い猫と暮らした少女がいました。名前を呼んでも一度も返事をしなかった理由は、四十九日のあとに隣家の奥さんの一言で分か…
小学生の頃に飼っていた白猫は、私が家を空けた冬に用水路で亡くなりました。就職して二年目、泣きながら歩く夜道に現れた一匹の白い猫。越前の眼鏡の町を舞台に、なぜあの…
餌をやると、翌朝きまって沓脱ぎ石の右の端にどんぐりが一つ置いてある。お礼だと思っていました。けれどその置き場所には、私が越してくる三年も前から決まっていた理由が…
生まれる前から家にいた白猫のミーコ。嵐の夜に父が拾ったその子は、漁師の父を持つ港町の少女のそばで、つらい日もうれしい日もいつも静かに寄り添い続けてくれました。一…
家族に言えない悩みを、布団の中で茶トラ猫にだけ打ち明けていた日々。その子を見送って五年、疲れ果てて眠る私の背中に、忘れられない重みが戻ってきた。亡くなった後も寄…
長野の諏訪で寒天を作る家に、雪の朝、こはくという猫が生まれました。嫁いだ私を、こはくは毎日夕方になると玄関で待っていたそうです。三和土に揃えて置かれていた古いス…