弟のマフラーが届かなかった冬
毎年十二月に届いていた弟からの手編みマフラー。今年は届かなかった。看護師の姉が遺品整理で見つけた手紙に、弟が三年間黙っていた理由が綴られていた——切なくも温かい…
毎年十二月に届いていた弟からの手編みマフラー。今年は届かなかった。看護師の姉が遺品整理で見つけた手紙に、弟が三年間黙っていた理由が綴られていた——切なくも温かい…
祖母の遺品整理中に見つかった古い菓子缶。中には三十年分の絵はがきが。全部、私の名前が書かれていた。切手は一枚も貼られていなかった。…
古書店主の増田は、口うるさかった恩師の万年筆のキャップに隠された手紙を見つける。そこには一度も口にしなかった言葉が、静かに記されていた。…
郵便局員の父が、五年前から預けていた手紙。そこに書かれていたのは、不器用な父が一度も言葉にできなかった誇りと愛情だった。…
弟の航が亡くなる前日、十一年後の兄が過去の自分へ宛てた手紙。風呂場の鼻歌、ベンチの端の背番号十八、青いお守り。葬儀の庭で知った自慢の弟の本当の意味を、静かに綴る…
二十五歳まで生きられないと打ち明けた妻は、生まれたばかりの娘のために二十本のビデオテープを残しました。背表紙の一本だけ裏返しに貼られたラベルには、泣き虫の夫への…
終戦後の満州から逃げ延びた祖父と、沖縄で幼い弟を背負って歩いた祖母。私が二十七歳の秋に届いた一通の手紙が、語られなかった戦争の記憶を静かに開いた。生かされた命と…
十五歳で妹を引き取り、二十三歳で世を去った兄。道具箱の底に残された兄の手紙の裏面には、三十年かけて、妹と娘の返事が書き足されていった。玉子かけ飯の醤油三滴から始…
北海道・増毛の造り酒屋で冬だけ働いていたあなたと別れて、七年が経ちました。坂の途中の電柱で必ず一度だけ立ち止まっていた理由と、あの別れの言葉を誰から引き取ったの…
別れ際に「迎えに行く」と言った男は、四年も彼女を待たせた。葬儀の控室で見せられた手紙の束には、下手な字の横に鉛筆のふりがなが並んでいた。俺の下手な字を読み解き続…
諫早から松戸まで訪ねてきた母は、三日のあいだ一度も私のポケベルを鳴らしませんでした。使い方を知らないのだと、私は十五年ものあいだ思い込んでいたのです。冷蔵庫に残…
佐賀の有田で染付の絵付けをしていた祖父は、脳梗塞で右手が利かなくなりました。余命を家族だけが知っていたはずのその年の翌日から、祖父は左手で字を書く練習を始めます…
母が遺したのは、ひらがなだけの短い手紙でした。押入れの箱の底から出てきた十九枚の書き損じと、右手の親指だけが少し太い七組の手袋。手袋の町で育った私が、二十八年目…
祖母は六十年、毎朝仏壇に向かって貴様と呼びかけていました。悪態だと思っていたその一語の意味が、北満の守備隊にいた祖父の残した一枚の薬包紙と最後の軍事郵便で反転し…
淡路の線香屋のもとへ、五年も遅れて亡き妻からの手紙が届きました。同封されていた細い紙は、五年経ってもまだ匂ったのです。なぜ五年だったのか。香りの長さに託された約…