サチへ

公開日: ペット | 悲しい話 |

犬(フリー写真)

前の飼い主の都合で初めて我が家に来た夜、お前は不安でずっと鳴いていたね。

最初、お前が我が家に慣れてくれるか心配だったけど、少しずつ心を開いてくれたね。

小学生の時、空き地でお前とよく追いかけっこしたよね。

速かったなぁ。

全然追い付けなかったよ。

買い物に行った時なんかは、柱に紐を括り付けておけば、きちんとお座りして待っていてくれたね。

利口なお前が本当に大好きだったよ。

可愛かったなぁ。

俺もお前をよく可愛がったと思うが、お前もよく俺に懐いてくれたね。

でも年を取るにつれ、少しずつ元気がなくなって行ったね。

家から五分の公園に行って、ベンチにチョコンと座ったまま動かないんだもんね。

しょうがないから二人でボーッとしてたね。

何か日向ぼっこしてるみたいだったな。

最期の方、散歩に付いて行かなくてゴメンよ。

前は庭に出るだけで駆け寄って来たお前が、小屋から出るのも大変そうにしているのを、辛くて見ていられなかったんだ。

でもあの時はまだ、

『サチは死なない。

死なない』

そう何の根拠もなく、勝手に思い込んでいたんだ。

だからお前が死んでしまったって母親が言った時、とてもじゃないけど信じられなかったよ。

冬の寒い朝だったね。

小屋から出て口を少し開けて、本当に寝ているような感じだったよ。

あの時、頭をちょっと撫でただけですぐに二階へ行ったのは、あのままずっとお前を見ていたら涙が止まらなくなってしまいそうだったからだよ。

もうお前がいなくなってから犬は飼っていません。

飼う気も起きません。

頭を撫でてやると耳をずらし目を細めるお前の顔は、一生忘れません。

最期の方、お前を構ってやらなくてゴメン。

本当にゴメン。

今でも後悔しているよ。

お前は俺にとって家族であり、親友であり、そして何よりかけがえのない大切な存在でした。

関連記事

犬(フリー写真)

盲導犬のサリー

私がかつて知っていた盲導犬のサリーの話です。 サリーはとても頭の良い犬でした。 盲導犬としての訓練を優秀な内容で終え、飼い主さんの元へ預けられました。 サリーは晴れ…

太平洋戦争(フリー写真)

少年の志願

俺は今、介護福祉士として働いている。 妹が今度修学旅行で鹿児島へ行くらしく、職場でその話をしていたら、利用者さんの一人が 「鹿児島か…」 と暗く呟いた。 その方…

犬

少年とテツ

1月の寒い朝、思い出す少年がいます。 当時、私は狭心症で休職し、九州の実家で静養していました。 毎朝、愛犬テツとの散歩中、いつも遅刻ギリギリの不良少年に出会いました。 …

恋人

不妊を告げた私に、彼が渡してくれた指輪

私は現在20歳です。 彼氏と出会ったのは、去年の夏。ナンパがきっかけでした。 彼は見た目からして、いわゆるチャラ男。正直、絶対に好きになんてならないと思っていました。 …

子犬(フリー写真)

子犬を買いに来た男の子

あるペットショップの店頭に『子犬セール中!』の札が掛けられました。 子犬と聞くと子供はとても心をそそられるものです。 暫くするとやはり、男の子が店に入って来ました。 …

カップル(フリー写真)

最後の時を過ごす二人

従兄弟が大腸癌で亡くなった。27歳だった。 その彼女は、従兄弟が癌と判ってから、仕事もあったのに毎日病室を訪れ付き添っていた。 結婚の約束もしていたんじゃないかな。 …

手をつなぐカップル(フリー写真)

もう一度会いたい

かつて、私には愛すべき彼女がいた。 彼女は素直で、容姿も整っていた。しかし周りからは常に皮肉を言われていた。 「あの女と付き合ってるの? お幸せにね」 彼女はあまり…

夜の車道

届かなかったごめん

あの日、俺は彼女と、ほんの些細なことでケンカをしていた。 原因は覚えていないほどの小さなことだったけれど、お互いに意地を張り、言葉が冷たくなっていった。 険悪な空気のまま…

母猫(フリー写真)

母猫の選択

Rの実家は猫好きな一家で、野良猫に餌をあげているうちに、家中猫だらけになってしまったそうだ。 住み着いた猫が仔を作り、その仔もまた仔を作る。 一時は家庭崩壊しかけたほど猫が…

阪神淡路大震災(フリー写真)

大切な親友との約束

小学4年生の時、俺はマンションで友達と遊んでいた。 ミニ四駆が流行っていた頃だ。 いつも騒いでいた俺たちは、管理人さんに怒られたものだ。 俺は改造が下手で遅れがちだ…