小さな黒猫の命

公開日: 悲しい話 |

黒猫

小学校の帰り道、裏門の近くで小さな黒猫の赤ちゃんを見つけた。

目は膿でふさがれ、ほとんど開いていない。

痩せ細った体を震わせながら、かすれた声で鳴いていた。

見捨てることなんてできなかった。

どうにかしなきゃ――そう思って、その小さな命を抱きかかえた。

家に持ち帰ると、親に叱られた。

「うちは猫を飼えない」と。

代わりに、近所の野良猫に餌をあげているお宅の庭の近くに置いてくるように言われた。

どうしても納得できなかったけれど、子供だった私にはそれ以上どうすることもできず、泣きながら黒猫をその庭の近くにそっと置いた。

きっと、誰かが助けてくれるはず。

そう信じたかった。

数日後、その場所を通りかかった時、かすれた鳴き声が聞こえた。

もしやと思い、声のするほうへ駆け寄ると、そこにいたのはあの時の黒猫だった。

がりがりに痩せ、体には蚤がびっしりついている。

目は相変わらず開かず、弱々しく鳴くだけだった。

「やっぱり、放っておけない」

気づいた時には、私はもう黒猫を抱えて家へ走っていた。

もう一度、必死で親に頼み込んだ。

「全部私が責任を持つから!」

何度も何度も頭を下げ、ようやく飼うことを許してもらえた。

すぐにミルクをあげて、体をきれいに洗って、湯たんぽを入れて温めた。

やっと安全な場所を作ってあげられた。

黒猫は小さな箱の中で静かに眠った。

「もう、大丈夫だよ」

そう思っていた。

けれど、それから一週間も経たないうちに、その小さな命は尽きてしまった。

その前日の夜、いつもは箱の中で眠っていた黒猫が、初めて私の布団の中に潜り込んできた。

体をすり寄せてくるその小さなぬくもりが、なんだかいつもと違う気がした。

でも私は、もし潰してしまったら怖いし、まだ蚤が残っているかもしれないと思い、そっと箱に戻した。

「また明日ね」

そんなことを言いながら。

次の朝、黒猫は冷たくなっていた。

もう、動かない。

何度呼びかけても、耳をぴくりとも動かさなかった。

どうして?

寒かったの?

寂しかったの?

私と一緒に眠りたかったのに、拒んでしまったから?

そもそも、最初にもっとちゃんと親に頼んで、すぐに家で飼うことができていたら――。

病院にも連れて行ってあげられなかった。

何も知らなかった私のせいで、この子は死んでしまったのかもしれない。

本当に、本当にごめんね。

小さな体で、一生懸命生きようとしていたのに。

せっかく助けられたはずなのに、私は何もできなかった。

あの時、もう少し違う選択ができていたら、この子は今も生きていたかもしれないのに。

今でも、思い出すたびに胸が締めつけられる。

あの小さな黒猫のことを、私は一生忘れない。


note 開設のお知らせ

いつも当ブログをご愛読いただき、誠にありがとうございます。
今後もこちらでの更新は続けてまいりますが、note では、より頻度高く記事を投稿しております。

同じテーマの別エピソードも掲載しておりますので、併せてご覧いただけますと幸いです。

note版では広告が表示されず、長編や特選記事を快適にお読みいただけます。
さらに初月無料の定期購読マガジン(月額500円)もご用意しており、読み応えあるエピソードをまとめて楽しむことができます。

泣ける話・感動の実話まとめ - ラクリマ | note

最新情報は ラクリマ公式 X アカウント にて随時発信しております。ぜひフォローいただけますと幸いです。

関連記事

時計台

約束の午後五時

僕の友達が、事故で亡くなった。 本当に突然の出来事で、何が何だか理解できず、涙すら出なかった。 葬式には、クラスの仲間やたくさんの友達が集まっていた。 遺影の中の彼…

猫

最期に選んだ場所

物心ついた頃から、ずっと一緒にいた猫が病気になった。 毎日名前を呼ぶと、必ず腕の中に飛び込んできていたあの子が、もう元気に動くことすらできなくなっていた。 獣医さんからも…

日記帳(フリー写真)

親孝行したい時に

高校を卒業してから4年間、何もせずに家でお金を使うことしかしていなかった。 オンラインゲームをしたりゲームを買ったり。偶に親に怒鳴り散らしたりもした。 そんな駄目な俺が2…

海

最後の敬礼 – 沖縄壕の絆

沖縄、戦時の地に息をひそめる少年がいました。 12歳の叔父さんは、自然の力を借りた壕で日々を過ごしていたのです。 住民たちや、運命に翻弄された負傷兵たちと共に。 し…

カップル

彼女が遺した約束

大学時代、私たちの仲間内に、1年生の頃から付き合っていたカップルがいました。 二人はとても仲が良く、でも決して二人だけの世界に閉じこもることなく、みんなと自然に接していました。…

カップル(フリー写真)

彼女の日常

俺には幼馴染の女の子が居た。 小学校から中学校まで病気のため殆んど普通の学校に行けず、いつも院内学級で一人で居るせいか人付き合いが苦手で、俺以外に友達は居なかった。 彼女の…

瓦礫

震災と姑の愛

結婚当初、姑との関係は上手く噛み合わず、会う度に気疲れしていた。 意地悪されることはなかったが、実母とは違い、姑は喜怒哀楽を直接表現せず、シャキシャキとした仕事ぶりの看護士だっ…

愛猫

猫のゆめと過ごした日々

私が高校生の冬のことです。 家で飼っていた猫が、赤ちゃんを産みました。 しかも、よりによって私の布団の上。電気毛布のぬくもりに包まれて、5匹の小さな命が生まれました。 …

三毛猫(フリー写真)

幸せな猫の一生

僕はご主人様に拾われました。 毎日、おいしいご飯をくれました。 外で汚れたら、お風呂で洗ってくれました。 いつもいっぱい遊んでくれました。 たまにイタズラして怒…

恋人同士(フリー写真)

抱き締められなかった背中

私が中学生の時の話です。 当時、私には恋人のような人が居た。 『ような』というのは、付き合う約束はしていたけど、まだ付き合い始めていない状況だったため。 子供ながらに…