継ぎ目の音を数えた子
六十三歳で夜間の大学に入った元保線員の私は、講義室の窓の震えの中に線路の継ぎ目の音を聞いていました。十八年会っていない父と息子をもう一度つないだのは、私がかつて…
六十三歳で夜間の大学に入った元保線員の私は、講義室の窓の震えの中に線路の継ぎ目の音を聞いていました。十八年会っていない父と息子をもう一度つないだのは、私がかつて…
父のカメラに残っていた未現像のフィルム。現像すると、私が仕事で通った五島列島の同じ場所ばかりが写っていました。「そうか」としか言えなかった無口な漁師の父と、後悔…
父とまともに話したのは、十三年ぶりだった。大工だった父から渡された古いかんな。その裏に小さく彫られた文字が、長年の沈黙をほどいていく、父と息子の感動の実話。…
母を亡くした後、無口な林業家の父と疎遠になった陶芸家の息子。父の入院をきっかけに実家を訪れた彼が、作業小屋で見つけた28体の木彫りの人形に刻まれていた、誰にも語…
ピアノ調律師の私は、父が亡くなった知らせを島へ向かうフェリーで受けた。実家に残された古い携帯の発信履歴と、毎年三月に届いていた島のピアノの調律依頼。請求書の隅に…
時計修理士の俺が、亡き父の遺品整理で見つけたセロハンテープだらけの壊れた眼鏡。大切なものの箱に残された七年分の覚え書きが、父が息子に言えなかった想いを静かに明か…
靴箱の上の火防せのお守りは、私が消防士になった年からそこにあった。倒れた父の病室で声をかけてきた元同僚の一言と、物置の菓子缶に納められないまま溜まっていた十四体…
長崎の実家で見つかった父の財布の中の一本の鍵。倉庫の古い錠前に合った鍵の先で、達也は未完成の本棚と、病を隠して棚を作り続けた父の手帳、そして幼い日の読み聞かせの…
郵便局員の父が、五年前から預けていた手紙。そこに書かれていたのは、不器用な父が一度も言葉にできなかった誇りと愛情だった。…
調律師の私が父の遺品から見つけた古いレコーダー。そこに録られていたのは、幼い日の私のピアノと、父が一度も言葉にできなかった想いだった。…
山形・天童で将棋駒を彫る父が、三歳半の息子に初めて「とおしゃん」と呼ばれた朝の話です。妻は入院中の毎晩、おなかの子に三文字だけを教え、七年かけて二十三枚の歩兵を…
父の作業台の抽斗には、売り物にしない蝋細工の膳が、年にひとつずつ増えていた。失敗作だと聞かされていたので、抽斗を開けたのは十三回忌の今日が初めてだ。十七の膳に書…
一昨年の夏、五歳の息子と昆虫展へ向かう途中、渋滞の最後尾で大型トラックに追突された。潰れた助手席から息子を救い出したのは、通りかかった迷彩服の若い隊員だった。病…
奥多摩の谷を走る町営バス、日向沢線。運転手だった父は、日誌の余白にたった一行だけを書き続けていました。結婚を前に血のつながりを打ち明けた父へ、息子は一言だけ返し…
駅裏の小さな卓球場に、毎日ひとりで通う高校生がいました。彼が球出し機をいちばん速くする理由を、店主は長いあいだ知りませんでした。亡き父と交わした約束と、返せなか…