強い意志

公開日: ちょっと切ない話 | 心温まる話

道場(フリー写真)

半年程前に「強くなりたい」と相撲道場に入部して来た子。

はっきり言って運動神経も無く、体もひ弱です。

あまりここに書くのも憚られますが、とても切ない過去を持つ子供なんです。

何でも、父親に虐待され、母親と一緒に実家に逃げて来たとか。

母親が殴られて泣かされるところを、何度も見て来たそうです。

それで「母親を守れるくらい強くなりたい」と、自分の足で相撲道場を調べてやって来たそうです。

こんな子供が、本当に居るとは…。

家庭環境の話など、聞いていて目頭が熱くなりました。

稽古には驚くほど真剣に取り組みます。

一度でも倒されると「もういっちょお願いします!」と立ち上がる。

おでこから血が流れても、構わず必死にぶつかる。

申し合いの時も、積極的に前に出て取り組みます。

ゲロを吐いて「少し休め」と言っても、「まだまだ!」と稽古を続ける。

泣きそうになるのを、奥歯を噛み締め我慢している姿を見ると、絶対に強くしてあげたいと思うようになります。

ただ体格が悪いのと、ちょっと気が弱いため、まだまだ勝てるレベルには到達していませんが。

しかし、必死に稽古を頑張っている姿は、周りの子供にも少しずつ影響を与え始めています。

家でも努力しているようで、毎日四股腰割りを百回以上するそうです。股割が段々と出来るようになって来ました。

しかも家ではお母さんのために皿洗いをしたり、肩を揉んであげたりするようです。

まさかこんな子が現代に居るとは…。

この子の成長が楽しみです。

関連記事

水族館

忘れられない君への手紙

あなたは本当に、俺を困らせたよね。 あの日、バスの中でいきなり大声で「付き合ってください!」って言った時から、もう、困ったもんだ。 みんなの視線が痛かったよ。 初デ…

雨(フリー写真)

真っ直ぐな青年の姿

20年前、私は団地に住んでいました。 夜の20時くらいに会社から帰ると、団地前の公園で雨の中、一人の男の子が傘もささず向かいの団地を見ながら立っていました。 はっきり言って…

誓いの言葉

花嫁姿を見せたくて

大学生の頃、仲の良かった友人のAちゃんは、同じ大学の彼氏B君と同棲を始めました。まだ若かったふたりに、両親は「結婚はまだ早い。責任ある交際を」と諭していました。 そんなある日—…

犬(フリー写真)

盲導犬のサリー

私がかつて知っていた盲導犬のサリーの話です。 サリーはとても頭の良い犬でした。 盲導犬としての訓練を優秀な内容で終え、飼い主さんの元へ預けられました。 サリーは晴れ…

桜(フリー写真)

桜と最後の嘘

僕は良いところなど一つも無いと言って良い程、嫌な人間だった。 ルックスに自信は無く、頭も良くはない。そして、人に平気で嘘を吐く卑怯者。 僕に構う人など誰も居なかった。もちろ…

病室(フリー写真)

おばあちゃんの愛

私のばあちゃんは、いつも沢山湿布をくれた。 しかも肌色のちょっと高い物。 中学生だった私はそれを良く思っていなかった。 私は足に小さな障害があった。 けれど日…

夕焼け(フリー素材)

大きな下り坂

夏休みに自転車でどこまで行けるかと小旅行。計画も、地図も、お金も、何も持たずに。 国道をただひたすら進んでいた。途中に大きな下り坂があって、自転車はひとりでに進む。 ペダル…

たんぽぽを持つ手(フリー写真)

あした

私の甥っ子は、母親である妹が病気で入院した時に、暫くパパママと離れて実家の父母の家に預けられていました。 「ままがびょうきだから、おとまりさせてね」 と言いながら、小さな体…

学校の机(フリー写真)

君が居なかったら

僕は小さい頃に両親に捨てられ、色々な所を転々として生きてきました。 小さい頃には「施設の子」とか「いつも同じ服を着た乞食」などと言われました。 偶に同級生の子と遊んでいて、…

冬と春の境界(フリー写真)

人間としての愛

1月の朝がとても寒い時に、必ず思い出す少年がいます。 当時、私は狭心症で休職し、九州の実家にて静養していた時でした。 毎朝、愛犬のテツと散歩していた時に、いつも遅刻して実家…