あの日の下り坂
夏休みのある日、友達と「自転車でどこまで行けるか」を試すために小旅行に出かけた。地図も計画もお金も持たず、ただひたすら国道を進んでいった。
途中に大きな下り坂が現れ、自転車はまるで自分の意志を持つかのように勢いよく滑り落ちた。ペダルを漕がなくても、何もしなくても進む自由さ。
その瞬間は、まるで世界一早い人間になったような気分だった。汗を滝のように流しながらも、青空の下で笑い合う僕たち。
しかし、帰り道が分からなくなり、不安と恐怖が襲ってきた。いらいらして友達と喧嘩になり、涙を流した。交番で道を尋ねて、ようやく帰宅した時には夜も更けていた。
家に着くと親に叱られ、蚊に刺され、自転車も汚れてしまった。それでも翌日、僕たちはまた元気になり、その冒険は楽しい思い出として、絵日記の1ページになった。
今、大人になって電車の窓からあの下り坂を見下ろす。実際には家から電車で10駅くらいの距離だった。子供の頃に感じたほどの大きさや長さはなく、永遠のように感じたあの坂は、実はそれほどでもなかった。
でも今も、あの坂を自転車で滑り落ちる子供たちがいる。彼らもいつか大人になって思うだろう。
どれだけお金や時間を使って遊んでも、あの下り坂を下っていた時の楽しさは二度と味わえないと。友達と笑いながら滑り落ちたあの坂を、もう二度と下ることはないだろうと。
あの時のように無邪気で、無鉄砲で、楽しい時はもう二度と来ないだろうと。