ママの最後の魔法
サキちゃんのママは重い病気と闘っていたが、死期を悟ってパパを枕元に呼んだ。
その時、サキちゃんはまだ2歳だった。
「あなた、サキのためにビデオを3本残します。
このビデオの1本目は、サキの3歳の誕生日に。
2本目は小学校の入学式に。
そして3本目は…○○○の日に見せてあげてください」
間もなく、サキちゃんのママは天国へと旅立った。
※
そしてサキちゃんの3歳の誕生日が来て、1本目のビデオを再生した。
「サキちゃん、お誕生日おめでとう。ママ、うれしいな。
でもママはね、テレビの中に引っ越したの。だから、こうやってしか会えない。
パパの言うことをよく聞いて、おりこうさんでいてね。そしたらママ、また会いに来ます」
※
サキちゃんの小学校入学の日。2本目のビデオ。
「サキちゃん、大きくなったね。おめでとう……。ママ、うれしいな。どんなにこの日を待っていたか。
サキちゃん、ちゃんと聞いてね。ママが今住んでいるところは、天国なの。だから、もう会えない。
でもね、パパのお手伝いがちゃんとできたら、ママはもう一回だけ、会いに来ます。
じゃあ、魔法をかけるよ。
エイッ!
ほうら、サキちゃんは料理や洗濯ができるようになりました」
※
3本目のビデオのタイトルには、こう書いてあった。
『新しいママが来た日のサキちゃんに』
そしてサキちゃんが10歳の時にパパは再婚し、新しいママが来た。
3人一緒に、3本目のビデオを再生することにした。
テレビに懐かしいママの顔が映し出された。
「サキちゃん、おうちの仕事、がんばったね。えらかったね。
でも、もう大丈夫。新しいママが来たんだから。
……。
サキちゃん。今日で本当にお別れです。
……。
サキちゃん、今、身長はどれくらい? ママには見えない。
(泣き崩れ、カメラを抱え込む姿が映る)
ママ、もっと生きたい…。
あなたのために、美味しいものいっぱい作ってあげたい…。あなたの成長を見つめていたい…。
じゃあ、サキちゃん、これがママの最後の魔法です。
それは『ママを忘れる魔法』です。
ママを忘れて、パパと、新しいママと、楽しい暮らしを作ってください。
では、魔法をかけます。1、2、3、ハイッ!」
そこでビデオは終わった。
しかし、サキちゃんにこの魔法は効かなかった。
パパと、新しいママにも効かなかった。
ママは、みんなの心の中に、ちゃんと残っていた。
そして今度は、サキちゃんが主役の、4本目のビデオが作られたのだった。
天国のママに見てもらうために。