貴重な家族写真

公開日: ちょっと切ない話 | 家族 |

病院のベッド(フリー写真)

俺が小さい頃に撮った家族写真が一枚ある。

見た目は普通の写真なのだけど、実はその時父が難病を宣告され、それほど持たないだろうと言われ、入院前に今生最後の写真はせめて家族と…と撮った写真らしかった。

俺と妹はまだそれを理解できずに無邪気に笑って写っているのだが、母と祖父、祖母は心なしか固いと言うか思い詰めた表情で写っている。

当の父はと言うと、どっしりと腹を括ったという感じで、とても穏やかな表情だった。

母がその写真を病床の父に持って行ったのだが、その写真を見せられた父は特に興味も示さない様子で

「その辺に置いといてくれ。気が向いたら見るから」

と、ぶっきらぼうだったらしい。

母も、それが父にとって最後の写真という事で、見たがらないものをあまり無理強いするのも良くないと思い、そのままベッドの傍に適当に仕舞っておいた。

暫くして父が逝き、病院から荷物を引き揚げる時に改めて見つけたその写真は、まるで大昔からあったかのようにボロボロで、家族が写っている部分には父の指紋がびっしり付いていた。

普段とても物静かで、宣告された時も見た目は普段と変わらずに平常だった父だが、人目のない時、病床でこの写真をどういう気持ちで見ていたのだろうか。

今、お盆になると、その写真を見ながら父の思い出話に華が咲く。

祖父、祖母、母、妹、俺…。

その写真の裏側には、もう文字もあまり書けない状態で一生懸命書いたのだろう、崩れた文字ながら

『本当にありがとう』

とサインペンで書いてあった。

関連記事

民家

救いの手

3年前の夏、金融屋として働いていた私は、いつものように債務者の家を訪れました。しかし、親は姿を消し、5歳の男の子と3歳の女の子だけが残されていました。 私はまだ新米で、恐ろしい…

マラソン

継承されるタスキ

小さな頃、親父と一緒に街中をよく走ったものだ。田舎の我が町は交通量も少なく、自然豊かで、晴れた日の空気は格別だった。 親父は若い頃、箱根駅伝に出場した経験がある。走るのが好きで…

小さな女の子の横顔

「ありがとう」から始まった家族

兄家族が、俺たちの家に突然やってきた。  そして――長女を置いて、引っ越していった。 ※ 兄も兄嫁も、昔から甥っ子ばかりを溺愛していた。 甥は確かにすごい奴だ…

眠る犬(フリー写真)

飼い犬との別れ

今年の元旦の事だった。 僕の実家にはKという犬が居た。 Kは僕が大学の頃に飼い始めて、かれこれ14年。 飼い始めの頃はまだちっちゃくて、公園に散歩に連れて行っても、懸…

手紙(フリー写真)

亡くなった旦那からの手紙

妊娠と同時に旦那の癌が発覚。 子供の顔を見るまでは…と頑張ってくれたのだけど、ちょっと間に合わなかった。 旦那が居なくなってしまってから、一人必死で息子を育てている。 …

手を組む女性(フリー写真)

恋人からの手紙

昨日、恋人が死んじゃったんです。病気で。 そしたらなんか通夜が終わって、病院に置いて来た荷物とか改めて取りに行ったら、その荷物の中に俺宛ての手紙が入ってたんです。 で、よく…

母と娘

余命3ヶ月の母の“最後のおむすび”

僕がかつて看取った患者さんに、スキルス胃がんを患っていた一人の女性がいました。 余命3ヶ月と診断され、彼女はある病院の緩和ケア病棟に入院してきました。 ※ ある日の…

カップル

君への罪滅ぼし

高校二年の終わり、図書館で偶然隣に座った君に、僕は一目惚れをした。 僕はそれから学校が終わると駆け足で図書館に通い、いつも君を事を探していた。 勇気を出して話し掛けてみた…

教室(フリー背景素材)

先生の涙

私がその先生に出会ったのは、中学一年生の時だった。 先生は私のクラスの担任だった。 明るくて元気いっぱい。 けれど怒る時は物凄い勢いで怒る。 そんなパワフルな先…

海の父娘(フリー写真)

例え火の中でも

私の両親は小さな喫茶店を営んでいます。 私はそこの一人娘で、父は中卒で学歴はありませんが、とても真面目な人でした。 バブルが弾けて景気が悪化して来た頃、父は仕事の暇な時間に…