母と携帯電話

公開日: 家族 | 心温まる話 |

初期の携帯電話(フリー写真)

15年前の話です。

今でもそうだが人付き合いの苦手な俺は、会社を辞め一人で仕事を始めた。

車に工具を積み、出張で電気製品の修理や取り付けをする仕事だ。

当時はまだ携帯電話は高価で、俺は仕事の電話をポケベルに転送し、留守電を聞いてお客さんに連絡するという方法しか取れなかった。

生活さえギリギリだった。

ある日、母親が九州の実家から関東の俺の家まで訪ねて来た。

遠くから来た親を労ることもせず、無愛想な俺。ホントにバカだ。

俺を心配し、掃除、洗濯、料理を作り、山ほど食糧を置いて母は帰郷した。

バカ息子は見送りもしなかった。

仕事から帰宅した俺は、母の手紙を見つけた。

『仕事頑張って下さい。少しですがこれで携帯電話でも買って、声を聞かせて下さい』

手紙にはお金が同封されていた。

手紙を手に、俺はわあわあ泣いた。

カメラやメールなんて出来ない。メモリーも50件しか入らない初期の電話。

でもこの電話にどれだけ助けられただろう。俺には最高の宝物。

母の日に電話を送った。ちゃんとお礼を言わなければ。

「おかあさん、どうもありがとう」と。

関連記事

パソコン(フリー写真)

母からのメール

私が中学3年生になって間もなく、母が肺がんであるという診断を受けたことを聞きました。 当時の自分は受験や部活のことで頭が一杯で、生活は大丈夫なのだろうか、お金は大丈夫なのだろう…

野球

懐かしの大声援

実家の母親は一人暮らしです。父親は健在ですが、6年前から施設に入っています。そのため、2年前に実家近くに家を買いました。しかし、私は県外で単身赴任中のため、私の家族が実家を頻繁に訪れ…

住宅街

最後のアイスクリーム

中学3年生の頃、母が亡くなった。 今でも、あれは俺が殺したも同然だと思っている。 ※ あの日、俺は楽しみに取っておいたアイスクリームを探していた。 学校から帰…

夫婦の後ろ姿

娘になった君へ

俺が結婚したのは、20歳のときだった。 相手は1歳年上の妻。学生結婚だった。 二人とも貧乏で、先の見えない毎日だったけれど、それでも毎日が幸せだった。 ※ 結…

プログラミング(フリー素材)

パパの一時間はいくら

プログラマーの父は、今日も仕事で疲れ切って遅い時間に帰って来た。 すると、彼の5歳になる娘がドアのところで待っていたのである。 彼は驚いて言った。 「まだ起きていた…

ウェディングドレスの女性(フリー写真)

俺の娘が、俺の嫁になった話

俺には、嫁がいない。 正確に言えば、嫁はいたのだが、病気で先立ってしまった。 ただ、俺には10歳の娘がいる。 娘は本当にヤンチャで、しょっちゅうケンカして帰って来る…

花嫁

娘の手紙と、父になれた日

土曜日、一人娘の結婚式だったんさ。 ※ 俺が彼女と出会ったのは、俺が25歳のとき。嫁は33歳だった。娘は、当時13歳。 つまり、娘は嫁の連れ子だった。 大きく…

手を握る(フリー写真)

ごうちゃん

母が24歳、父が26歳、自分が6歳の時に両親は離婚した。 母が若くして妊娠し、生まれた自分は望まれて生を受けた訳ではなかった。 母は別の男を作り、父は別の女を作り、両親は裁…

新郎新婦(フリー写真)

結婚式場の小さな奇跡

栃木県那須地域(大田原市)に『おもてなし』の心でオンリーワン人情経営の結婚式場があります。 建物は地域の建築賞を受賞(マロニエ建築デザイン賞)する程の業界最先端の建物、内容、設…

母の愛

義母がくれた、ほんとうの愛

俺が六歳のとき、親父が再婚して、新しい母親がやってきた。 「今日からこの人がお前のお母さんだ」 そう言って紹介された女性は、優しく微笑んでいた。 家族とか血のつなが…