あがり

公開日: 家族 | 心温まる話 | 祖父母

サイコロ(フリー写真)

俺は小さい頃、家の事情でばあちゃんに預けられていた。

当初は見知らぬ土地に来てまだ間も無いため、当然友達も居ない。

いつしか俺はノートに、自分が考えたすごろくを書くのに夢中になっていた。

それをばあちゃんに見せては、

「ここでモンスターが出るんだよ」「ここに止まったら三回休み~」

と説明していた。

ばあちゃんはニコニコしながら、

「ほうそうかい、そいつはすごいねぇ」

と相槌を打ってくれる。

それが何故か凄く嬉しくて、何冊も何冊も書いていた。

やがて俺にも友達が出来、そんな事も忘れて友達と遊びまくっていた。

その頃、家の事情も解消され、自分の家へ戻った。

ばあちゃんは別れる時もニコニコしていて、

「お父さん、お母さんと一緒に暮らせるようになって良かったねぇ」

と喜んでくれた。

先日、そのばあちゃんが死んだ。89歳の大往生だった。

遺品を整理していた母から、

「あんたにだよ」

と一冊のノートをもらった。

開いてみると、そこにはばあちゃんが作ったすごろくが書かれていた。

モンスターの絵らしき物が書かれていたり、何故かぬらりひょんなどの妖怪も混ざっていたり。

「ばあちゃん、よく作ったな」

と、ちょっと苦笑していた。

最後のあがりのページを見た。

『あがり』と達筆な字で書かれていた、その下に

『義弘(俺)くんに友達がいっぱいできますように』

人前で、それも親の前で号泣したのはあれが初めてでした。

ばあちゃん、死に目に会えなくてごめんよ。そしてありがとう。

関連記事

鉛筆と参考書(フリー写真)

厳しい母

私の母はとても厳しい。 身の回りの事は全て自分でやらされていた。 勉強も部活も一番じゃないと気が済まない。 定期テストで二番を取ると、 「二番は敗者の一番だ」…

親子(フリー写真)

父と過ごした日々

2年前、父を癌で亡くしました。 癌が発覚したのはその3年前。風邪が治らないと病院に通い、それでも治らず精密検査をしたら肺癌が見つかりました。しかもリンパにも転移していました。 …

天国(フリー素材)

天国のおかあちゃんへ

もう伝わらないのは解っているけど、生きている内に伝えられなかった事を今、伝えるね。 まずは長い闘病生活、お疲れ様。最後まで絶対に諦めなかったおかあちゃんの姿、格好良かったよ。 …

キャンドル(フリー写真)

キャンドルに懸けた想い

僕は24歳の時、当時勤めていた会社を退職して独立しました。 会社の駐車場で寝泊まりし、お子さんの寝顔以外は殆ど見ることが無いと言う上司の姿に、未来の自分の姿を重ねて怖くなったこと…

浜辺を走る親子(フリー写真)

両親は大切に

人前では殆ど泣いたことのない俺が、生涯で一番泣いたのはお袋が死んだ時だった。 お袋は元々ちょっと頭が弱くて、よく家族を困らせていた。 思春期の俺は、普通とは違う母親がむかつ…

新婦(フリー写真)

父が隠していた物

友人(新郎)の結婚披露宴での出来事。 タイムスケジュールも最後の方、新婦の父親のスピーチ。 ※ 「明子。明子が生まれてすぐ、お前のお母さんは病気で亡くなりました。 お前…

迷彩服のヒーロー

命を守ってくれた笑顔

一昨年の夏。私は5歳の息子を連れ、車で1時間ほどの自然博物館で開かれていた昆虫展へ向かっていました。 ムシキングの影響もあって、息子はこの日を心待ちにしていました。 博物…

空(フリー写真)

才能の代わりに

小学生の時、少し知恵遅れのA君が居た。 足し算、引き算などの計算や、会話のテンポが少し遅い。でも、絵がとても上手な子だった。 彼はよく空の絵を描いた。抜けるような色合いには…

親子(フリー写真)

育ててくれてありがとう

中学生の頃はちょうど反抗期の真っ最中だった。 ある日、母と些細な事で喧嘩になり、母から 「そんな子に育てた覚えはない!」 と言われました。 売り言葉に買い言葉で…

朝の空

天使になった少女

私が看護学生だった頃の話です。 ある休日、友達と遊びに行った帰り道で、突然、目の前で交通事故が起こりました。 ひとりの小さな女の子が車に撥ねられ、道路に倒れていたのです。…