嬉しそうな笑顔を

公開日: ちょっと切ない話 | 仕事 | 悲しい話

ゲームセンター(フリー写真)

うちのゲーセンに、毎日のように来ていたお前。

最近全然見ないと思ったら、やっと理由が判ったよ。

この前、お前の母ちゃんが便箋を持って挨拶に来たんだよ。

こちらで良くお世話になっていたみたいで、ってよ。

白血病かよ。

一ヶ月前まですげー元気そうだったじゃねえかよ。

お前がいつもやってたDJシミュレーションゲームは、お前が居なくなって以来、誰もやってるところ見ねーよ。

いつもスコアはデフォルトのまま。

何せお前一人で、毎日飽きもせずスコアを埋めてたからな。

一番笑えるのがウチの店長。

インカム悪い台はさっさと撤去する人間なのに、その台はお前が来ないと分かって一ヶ月近く経つのに、撤去の話が全然挙がんねーの。

それどころか、そのゲームのメンテを毎日欠かさずやってんだよ。

鍵盤やターンテーブルの調子を確かめて「良しっ」とか言ってんの。

良しも何も、誰もやってねーんだから、そうそう調子が狂う訳ねーよ。

だから、さっさと戻って来いよ。

ワンモアエキストラ抜けた時の嬉しそうな笑顔を見せてくれよ。

有り得ない発狂譜面をスイスイ捌くお前が、病気で死んだなんて信じられねーんだよ。

今までありがとう、としか書いてない手紙なんか要らねーんだよ。

関連記事

手繋ぎ

重なる運命のメッセージ

彼と彼女は、いつものツタヤの駐車場で待ち合わせをしました。お互いに重要な話があり、緊張しながら集まった二人は、メールで心の内を伝え合うことにしました。 彼は重い告白をしました。…

母の手(フリー写真)

お母さんが居ないということ

先日、二十歳になった日の出来事です。 「一日でいいからうちに帰って来い」 東京に住む父にそう言われ、私は『就職活動中なのに…』と思いながら、しぶしぶ帰りました。 実…

犬

隅っこの守護者

家で可愛がっていた犬が亡くなって、もう何年経っただろう。当時はまだ子育て中で、二人の小さい子供たちと忙しい日々を送っていました。ある日、夫が「番犬にもなるし子供たちにもいい」と突然犬…

父と子(フリー写真)

俺には母親がいない。 俺を産んですぐ事故で死んでしまったらしい。 産まれた時から耳が聞こえなかった俺は、物心ついた時にはもう既に簡単な手話を使っていた。 耳が聞こえな…

玩具にじゃれる白猫(フリー写真)

待っていてくれた猫

小学生の頃、親戚の家に遊びに行ったら痩せてガリガリの子猫が庭に居た。 両親にせがんで家に連れて帰り、思い切り可愛がった。 猫は太って元気になり、小学生の私を途中まで迎えに来…

親子の手(フリー写真)

親父の思い出

ある日、おふくろから一本の電話があった。 「お父さんが…死んでたって…」 死んだじゃなくて、死んでた? 親父とおふくろは俺が小さい頃に離婚していて、まともに会話すらし…

太陽(フリー写真)

一身独立

私が小さな建築関係のメーカーの担当営業をしていた頃の話です。 私の担当区域には、小さな個人商店がありました。 先代の社長を亡くし、若くして社長になった社長には二人の男の子が…

夕日(フリー写真)

生きることの大切さ

ガンダム芸人の若井おさむさん。 彼は幼い頃から日常的に、兄と母親から相当な虐待を受けていました。 それは彼が20代前半の頃までずっと続きました。 それに耐えかねた若…

秘密

豊かさの秘密

アメリカのとある大富豪が、十人のエージェントにある事を世界中で調査するように命じました。 それは「貧乏人が必ず金持ちになる方法はあるか」「金持ちが金持ちで居続けることができる方…

ネックレス(フリー写真)

大好きなあなた

大好きなあなたは、今も笑っているのでしょうか。 小さい頃に何故かおじいちゃんに引き取られた私(当時7歳)は、そこで三人の男の子に出会いました。 9歳の凄く元気なLと、12歳…