出会い
昔、美術館でバイトをしていた。
その日の仕事は、地元の公募展の受け付け作業。
一緒に審査員の先生も一人同席してくれる。
その時に同席してくれたのは、優しいおじいちゃんという感じの彫刻の先生。
一緒に並んで座っている私が咳をしていると、
「手を出しなさい」
と言う。
不思議そうに手を出すと、服のポケットから出した南天のど飴の小さな缶を振って、私の手のひらに飴を落とし、
「食べなさい」
と優しく笑った。
私は風邪気味でその日は何度も咳をし、その度に手を出しなさいと言われた。
「大事にしなさい、人間は簡単に死ぬからね」
とぽつんと言われ、
「やだー、先生、そんなに簡単に死にませんよー」
と笑って言ったら、
「そうだなぁ、そうだなぁ」
と優しく笑った。
※
半年後、新聞の死亡記事でその先生を見つけた。
その数日後に美術館でバイトをしていた時、その先生の話になった。
癌だった先生は、私が飴を貰った頃は既に告知を受けており、自分の死期が近い事を知っていたそうだ。
※
その半年後、某美術展の地方巡回展があり、私は売店のバイトをする事になった。
開会日の前日、会場の売店の整理の合間に作品を見て来ても良いと責任者に言われ、会場を回った。
とても優しく笑っている女の子の彫刻に喪章が付いていた。
審査員出品作。
その先生の最後の作品だった。
先生の優しい笑顔が不意に浮かび、トイレに駆け込んで泣いた。