あの時のペンダント

公開日: ちょっと切ない話 | 恋愛

宝物ボックス

俺が中学2年生だったときの話だ。

当時、幼馴染のKという女の子がいた。

小さい頃からよく一緒に遊んでいて、気づけば俺はKに恋心を抱くようになっていた。

でも、Kにはすでに彼氏がいた。

しかも、俺とは比べ物にならないほどカッコいい男だった。

勝てるはずもない。

Kは、わざわざ自分の口でその事実を俺に伝えてきた。

冗談っぽく笑いながらだったけど、俺にとっては胸をえぐられるような複雑な気持ちだった。

それからもKは、何かあると俺に恋愛の相談を持ちかけてきた。

「彼が冷たいんだよね」とか「どうしたら喜んでくれると思う?」とか。

俺は恋愛経験なんて全くなかったし、正直、話を聞くのも辛かった。

でも、Kが困っているのを見ると、無視もできなかった。

そんな自分にもどかしさを感じていた。

ある日、近所の人気のない小さな公園で、Kの相談に乗っていたときのことだった。

俺はその日、なぜかお気に入りのペンダントを首にかけていた。

何かの記念に買った、少し奮発して手に入れた大事なものだった。

話がひと段落すると、Kがふと聞いてきた。

「ねぇ、それ、何のペンダント?」

俺はちょっと照れながら、「ただの安物だよ」と答えた。

本当は、とても大切にしていたものだったのに。

「ふーん」とKが興味なさそうに言いながら、突然、後ろに回り込んできて──

俺の首から、そのペンダントをひょいっと外した。

「仲直りってことで、これ、彼にあげてくるね♪」

――は?

俺は一瞬、言葉を失った。

「ちょっと待て、それ俺のだぞ!」

「大丈夫!大切にしてくれるよ(笑)」

そう言って、Kは公園の出口で手を振りながら、ペンダントを持って走り去っていった。

俺はその場にしばらく立ち尽くした。

冗談だったのか、本気だったのか、未だによく分からない。

その後、Kと彼氏がどうなったのかを聞いてみたことがある。

でもKは、「んー、まぁいろいろあってさ」と話をはぐらかした。

それから約2ヶ月後。

Kが交通事故で亡くなった。

突然の知らせだった。

頭が真っ白になって、どう反応していいのか分からなかった。

葬式のときも、まるで現実味がなくて、涙も出なかった。

ただ、ぽっかりと心に穴が空いたようだった。

葬儀の後、どうしても気持ちの整理がつかなかった俺は、思い切ってKのお母さんに頼み込んだ。

「Kの部屋、少しだけ見せてもらえませんか」

Kとは幼い頃からよく遊んでいたし、母親も少し戸惑いながらも、静かに頷いてくれた。

Kの部屋に入ると、どこか懐かしい香りがした。

小さなぬいぐるみ、机の上に置かれた漫画本、写真立て──

その中に、タンスの上に置かれた小さな箱があった。

『宝物ボックス』

そう書かれた、少し古びた箱。

子どもの字で、汚く書かれていた。

そっとフタを開けてみると、色とりどりの小さな思い出が詰まっていた。

友達とのプリクラ、擦り減った消しゴム、可愛らしい鉛筆。

そして──あのペンダントがあった。

一瞬、心臓が止まりそうになった。

え…?

あれは、彼にあげたんじゃなかったのか?

思わず手に取り、じっと見つめた。

他にも、名前が薄く残った鉛筆や、裏に俺のイニシャルが刻まれた小物も入っていた。

その瞬間、胸の奥が熱くなって、気がつくと涙が止まらなくなっていた。

俺のことなんか何とも思ってない、そう思ってたのに──

Kは、きっと何かしらの想いを、ずっと心のどこかに持ってくれていたのかもしれない。

宝物は──俺だけが大事にしていたんじゃなかった。

Kにとっても、あのペンダントは“宝物”だったのだ。

それを知ったあの日の涙は、今も忘れられない。

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