
俺が中学2年生だったときの話だ。
当時、幼馴染のKという女の子がいた。
小さい頃からよく一緒に遊んでいて、気づけば俺はKに恋心を抱くようになっていた。
でも、Kにはすでに彼氏がいた。
しかも、俺とは比べ物にならないほどカッコいい男だった。
勝てるはずもない。
Kは、わざわざ自分の口でその事実を俺に伝えてきた。
冗談っぽく笑いながらだったけど、俺にとっては胸をえぐられるような複雑な気持ちだった。
※
それからもKは、何かあると俺に恋愛の相談を持ちかけてきた。
「彼が冷たいんだよね」とか「どうしたら喜んでくれると思う?」とか。
俺は恋愛経験なんて全くなかったし、正直、話を聞くのも辛かった。
でも、Kが困っているのを見ると、無視もできなかった。
そんな自分にもどかしさを感じていた。
※
ある日、近所の人気のない小さな公園で、Kの相談に乗っていたときのことだった。
俺はその日、なぜかお気に入りのペンダントを首にかけていた。
何かの記念に買った、少し奮発して手に入れた大事なものだった。
話がひと段落すると、Kがふと聞いてきた。
「ねぇ、それ、何のペンダント?」
俺はちょっと照れながら、「ただの安物だよ」と答えた。
本当は、とても大切にしていたものだったのに。
「ふーん」とKが興味なさそうに言いながら、突然、後ろに回り込んできて──
俺の首から、そのペンダントをひょいっと外した。
※
「仲直りってことで、これ、彼にあげてくるね♪」
――は?
俺は一瞬、言葉を失った。
「ちょっと待て、それ俺のだぞ!」
「大丈夫!大切にしてくれるよ(笑)」
そう言って、Kは公園の出口で手を振りながら、ペンダントを持って走り去っていった。
俺はその場にしばらく立ち尽くした。
冗談だったのか、本気だったのか、未だによく分からない。
その後、Kと彼氏がどうなったのかを聞いてみたことがある。
でもKは、「んー、まぁいろいろあってさ」と話をはぐらかした。
※
それから約2ヶ月後。
Kが交通事故で亡くなった。
突然の知らせだった。
頭が真っ白になって、どう反応していいのか分からなかった。
葬式のときも、まるで現実味がなくて、涙も出なかった。
ただ、ぽっかりと心に穴が空いたようだった。
※
葬儀の後、どうしても気持ちの整理がつかなかった俺は、思い切ってKのお母さんに頼み込んだ。
「Kの部屋、少しだけ見せてもらえませんか」
Kとは幼い頃からよく遊んでいたし、母親も少し戸惑いながらも、静かに頷いてくれた。
※
Kの部屋に入ると、どこか懐かしい香りがした。
小さなぬいぐるみ、机の上に置かれた漫画本、写真立て──
その中に、タンスの上に置かれた小さな箱があった。
『宝物ボックス』
そう書かれた、少し古びた箱。
子どもの字で、汚く書かれていた。
そっとフタを開けてみると、色とりどりの小さな思い出が詰まっていた。
友達とのプリクラ、擦り減った消しゴム、可愛らしい鉛筆。
そして──あのペンダントがあった。
※
一瞬、心臓が止まりそうになった。
え…?
あれは、彼にあげたんじゃなかったのか?
思わず手に取り、じっと見つめた。
他にも、名前が薄く残った鉛筆や、裏に俺のイニシャルが刻まれた小物も入っていた。
その瞬間、胸の奥が熱くなって、気がつくと涙が止まらなくなっていた。
俺のことなんか何とも思ってない、そう思ってたのに──
Kは、きっと何かしらの想いを、ずっと心のどこかに持ってくれていたのかもしれない。
※
宝物は──俺だけが大事にしていたんじゃなかった。
Kにとっても、あのペンダントは“宝物”だったのだ。
それを知ったあの日の涙は、今も忘れられない。