人のために出来ること

公開日: 兄弟姉妹 | 友情 | 心温まる話

阿佐ヶ谷七夕まつりの短冊(フリー写真)

ある家庭に、脳に障害のある男の子が生まれた。

そして数年後、次男が誕生した。

小さい頃、弟は喧嘩の度に

「兄ちゃんなんて、バカじゃないか」

と言った。それを聞いて母親は悲しんだ。

だが母は何も言わず、じっと待つことにした。

兄が小学1年生になった時、兄の同級生を招いて兄の誕生日の祝いをしたのだが、兄は悲しいかな、急に招待した同級生を殴り始めた。

その時、弟が飛び出して来て、

「お兄ちゃん、殴るんだったら僕を殴って。ぼくなら痛くないから!」

それを聞いた母は心の中で『坊やありがとう』と言った。

その弟が小学一年生に入学した時、隣の席は手に障害のある子だった。

体育の授業のある日は体操服に着替えなければならないので、当然その隣の子は着替えに手間取って遅れて来た。

しかし二回目からは時間通りに来たので先生は不思議に思い、体育の授業のある日、そっと教室を覗いてみた。

すると、あの弟が一生懸命になって着替えを手伝っていたのだ。

先生はこのことをみんなに話そうかとも思ったが、せっかく弟が自主的にやっていることなので黙っていた。

さて、七夕の前日は授業参観日だった。

先生が児童の書いた短冊の願い事を読んでいた。

子供らしいおもちゃが欲しいなどの願いの中に、

『神様、どうか隣の子の腕を早く治してください』

と書いてあるのを見つけた。

そう、あの弟の書いたものだ。

先生は堪らなくなって、みんなの前でこの間の着替えのことを話し始めた。

自分の子が手に障害があるのでみんなに迷惑を掛けているのではないかと、廊下の隅で小さくなって授業を見守っていた母親が教室に飛び込んで来て、弟の足元で号泣した。

「坊やありがとう。ありがとう。ありがとう。ありがとう…」

関連記事

繁華街

夢への橋渡し

私はかつて、家の貧しい状況から夜の仕事をしながら大学に通うキャバクラ嬢でした。 私の初めてのお客様は、Yさんという70歳のお爺ちゃん。彼は口下手で、私の話に対して「うん。そうだ…

花嫁

父と歩む未来

私の幼い日の夢は、お父さんのお嫁さんになることでした。お父さんが大好きで、嫌いと思ったこともなく、他の友達よりもずっと仲が良かったと思います。 しかし、高校3年の時、進学につい…

夕日(フリー写真)

祖父母からのお小遣い

自分には77歳のばあちゃんがいる。 数ヶ月前にじいちゃんが亡くなり、最近はあまり元気が無い。 ばあちゃんの家には車で20分程で行ける距離だから、父と定期的に行くようにしてい…

コーヒーのドリップ(フリー写真)

店長さんの嘘

俺がまだ受験生だった頃の話。 当時、塾の自習室にはどうにも居辛くて、自習室代わりによく利用している喫茶店があった。 普段は20時前には自習室に戻っていたんだけど、そこの店長…

花(フリー写真)

母が見せた涙

うちは親父が仕事の続かない人で、いつも貧乏だった。 母さんは俺と兄貴のために、いつも働いていた。ヤクルトの配達や、近所の工場とか…。 土日もゆっくり休んでいたという記憶は無…

靴を持つ夫婦(フリー写真)

二つの指輪

「もう死にたい…。もうやだよ…。つらいよ…」 妻は産婦人科の待合室で、人目もはばからず泣いていた。 前回の流産の時、私の妹が妻に言った言葉…。 「中絶経験があったりす…

ビル

厳しさと愛情

その時の部長は非常に冷たい人だった。いつもインテリ独特のオーラを纏い、社内で孤立しているかのように見えた。 飲み会に誘っても決して参加せず、忘年会でも一人で静かに飲むタイプだっ…

バスの車内(フリー写真)

悪意と善意

10歳の息子がある病気を持っており車椅子生活で、更に投薬の副作用もあり一見ダルマのような体型。 知能レベルは年齢平均のため、尚更何かと辛い思いをして来ている。 ※ …

学校(フリー写真)

学生時代の思い出

俺が中学生の時の話。 当時はとにかく運動部の奴がモテた。 中でも成績が優秀な奴が集まっていたのがバスケ部だった。 気が弱くて肥満体の俺は、クラス替え当日から、バスケ部…

ラーメン(フリー写真)

母ちゃんとラーメン

今日、俺は珍しく母ちゃんを外食に誘った。 行き先は、昔からよく行く馴染みのラーメン屋だった。 俺は味噌ラーメンの大盛り、母ちゃんは味噌ラーメンの並盛りを頼んだ。 「昔…