不妊を告げた私に、彼が渡してくれた指輪

公開日: 恋愛 | 悲しい話

恋人

私は現在20歳です。

彼氏と出会ったのは、去年の夏。ナンパがきっかけでした。

彼は見た目からして、いわゆるチャラ男。正直、絶対に好きになんてならないと思っていました。

でも、彼のよく笑う顔や、不意に見せる優しさに惹かれていきました。気付けば、一緒にいるほどに心を奪われていったのです。

やがて彼も私に「好き」と言ってくれました。

それでも、正式に付き合うことはなく、曖昧な関係のまま流されて、体を重ねてしまう日々が続きました。

そんな関係に私は耐えられなくなりました。

大好きだからこそ、このままでは辛すぎる。

「このままの関係なら、もう会えない」

勇気を出して伝えました。

彼は真剣に耳を傾けてくれて、その日からようやく、私たちは恋人になりました。

半年が過ぎた頃のことです。

二人で未来の話をするのが当たり前になっていました。

「子供は女の子がいいな」

「結婚して何年経っても、一緒にお風呂に入ろうね」

そんな言葉を笑いながら交わし、子供を授かることも、結婚して幸せになることも当然のように信じていました。

けれど、一ヶ月経っても二ヶ月経っても、生理が来ませんでした。

妊娠を疑い、検査薬を使いましたが、結果は陰性。

その後、産婦人科に行きました。

「不妊症です」

そう告げられた瞬間、頭が真っ白になりました。

信じられませんでした。

なぜ私が。どうして。

涙は出ませんでした。

先生が間違っているんだと、腹立たしくさえ思いました。

病院を出て車に乗り、エンジンをかけました。

流れてきたのは、彼の大好きなケツメイシの曲。

その瞬間、溢れるように涙がこぼれました。

どうしよう。どうしよう。どうしよう。

泣きながら彼に電話を掛け続けました。

出るはずがないと分かっているのに、何度も。

一人でいるのが、あまりに怖かったのです。

昼過ぎ、彼から着信がありました。

電話口は騒がしく、昼休み中だったのでしょう。

泣いて言葉にならない私に、彼は優しく言いました。

「話せるようになるまで待ってるから」

私は「ごめんなさい」とだけ搾り出しました。

それが伝わったのかは分かりません。

夜、彼は作業着のまま私の家に来ました。

「すぐ来てやれんで、ごめんな」

そう言って、私の頭を撫でました。

私は泣きながら言いました。

「あたし、子供産めんて。そういう病気なんだって」

彼は一瞬、呆然とした顔をしました。

「…まじかよ」

それきり言葉を失いました。

私は別れを覚悟していました。

大好きな人だからこそ、私のせいで幸せを失わせたくなかったのです。

「ごめんな」

そう告げた時、彼の目に涙が浮かんでいました。

「一人で病院なんか行かせて、ごめんな」

彼は私の手を強く握りました。

「別れよう」

涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった顔で、私は強がって言いました。

「ふざけんな!勝手に決めんなよ!」

初めて、彼が大声で怒鳴りました。

「ずっと一緒だって言っただろ!」

「でも…あたしと一緒じゃ、人並みの幸せになれんやん…」

すると彼は、ポケットから小さな箱を取り出しました。

中には指輪。

私の左手薬指にはめながら、彼は笑って言いました。

「結婚しよう」

翌日が、ちょうど付き合って半年の記念日でした。

「子供がいなくたって、幸せな家庭は築けるんやて」

「俺も料理苦手だし、お前も下手やろ? 二人でやればいい」

「お前が何を考えてるか、俺はちゃんと分かる。強がりも、泣きたい時も」

「もしお前が記憶を失う病気になっても大丈夫や。忘れたくないこと、俺が全部覚えとくけん」

泣きながら笑う私に、彼は汚れた作業着の袖で涙を拭いました。

「やっと笑った」

その笑顔に、私は心から安心しました。

今、私たちは婚約しています。

不安もあるけれど、彼と一緒なら乗り越えられる。

これからも、一緒に泣いて、一緒に笑って。

私は大好きな彼と、幸せを築いていきます。

不妊治療、頑張ります。

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