泣くな

公開日: ちょっと切ない話 | 恋愛

夕日と花を掴む手(フリー写真)

ある日、教室へ行くと座席表が書いてあった。

私の席は廊下側の前から二番目。彼は窓側の一番後ろの席。離れてしまった。

でも同じクラスで本当に良かった。

クラスに馴染んで来た頃、私と彼は一緒に帰った。

彼とは一言も話した事が無い。もちろん帰りも全然話さなかった。

その日、メールで

「話せなくてゴメン」

と送られてきたから、私は

「ううん、私もだから」

と返した。

私と彼は帰れる日は一緒に帰った。少し話せるようになった。

でも私と彼は学校では話さなかった。

それから彼が学校に来る日が少なくなって行った。

誰に聞いても理由は判らなかった。

でも毎日メールをした。

学校に来ない理由を聞いても、

「風邪」

としか言わなかった。

ある日、彼の友達が私に言った。

「あいつ、ガンで入院してるよ」

私は泣いた。声を上げて泣いた。

悲しかったからじゃない。私に本当の事を言ってくれなかったから。

お見舞いに行こうと思った。でも彼は私に会いたくないと言った。

ガンの抗がん剤の副作用で髪の毛が抜け、私に見られたくないらしい。

それでも私は毎日メールをした。

時々返って来なかった。

返って来ても、

「死にたい」「辛い」

などしか言わなかった。

私はこの時、彼に何もしてあげられなかった。

ただ毎日学校で起きた一日を彼に送り続けた。

そして、良くなる事を願った。

文化祭の日。

私は一人楽しめずに、ボーっとしていた。

誰かが私を呼ぶ声がした。

後ろを振り返ると、車椅子に乗った彼がいた。

私は彼のところへ走った。

泣きそうになったが、彼が

「お前が泣くと俺も泣きそうになるから泣くな!」

と言ってくれた。

学校で話した事の無い彼が、みんなの前で私に話しかけてくれた。

初めての事だった。

だけどその文化祭の日が、彼に会った最後の日になった。

私は文化祭の日から彼とメールができなくなっていた。

一週間経っても…二週間経っても…。

ある日、先生が言った。

「○○君は、文化祭の4日後に亡くなりました」

初めて知った。

ちょっと具合が悪くなったとは聞いていた。

周りの友達はみんな泣いていた。

私は涙が出なかった。

訳が解らなかった。

家に帰ると、一通の手紙が届いていた。消印は文化祭の次の日。

母を問い詰めると、

「今日届いたのよ」

と言った。

私は手紙を握り締めて、自分の部屋へ走った。

ベットの上に座り、手紙を読んだ。

『マミへ

この手紙は、文化祭が終わってから3週間後に届けられるようにしてあるんだ。

これを読んでいる時は、俺はもうマミの側にはいないかな。

マミには沢山謝んなきゃいけない事がある。

学校で喋れなかったし、一緒に帰っている時も話せなかった。

恥ずかしかったんだ。言い訳だけど…。

文化祭の日、マミに会えて嬉しかった。何だか可愛くなった?(笑)

マミは俺に会わなかった方が良かっただろう。俺、変わってたべ?

今、俺は凄く怖い。いつ死ぬか判らない。

でもこれだけは言って置く。

マミ、好きだよ。

俺を忘れて、良い恋をしてください』

涙が溢れて来た。そして止まらなくなった。

封筒にはもう一枚、手紙が入っていた。

そこには、

『泣くな』

と書いてあった。

それから数日、私は泣いて過ごした。

彼の事が忘れられなかった。

中学3年生になった今、私は教室に入ると笑顔で

「おはよう」

と言う彼がいるのを期待して学校へ通っている。

文化祭の日は必ず彼の姿を探す。

後ろを振り返ると、彼がぎこちなく笑って顔を赤らめ、

「マミ」

と呼んでくれている気がする。

今は彼が行きたがっていた高校を受験しようと思っています。

関連記事

虹

コロとの別れ

我が家にはコロという名前の雑種犬がいました。彼は長く白と茶の毛がふわふわした美しい犬で、私が学生の頃、毎日学校からの帰り道で、通学路が見える場所に座って私の帰りを待っていました。賢く…

お手玉(フリー写真)

私のこと忘れないでね

遠い昔、私が小学4年生の頃の話です。 当時の僕は人見知りで臆病で、積極的に話しかけたりするのが出来ない性格でした。 休み時間、みんなは外に出て遊んでいても、僕は教室の椅子…

カップル

傷跡を越えて

私は生まれながらに足に大きな痣があり、それが自分自身でもとても嫌いでした。その上、小学生の時に不注意で熱湯をひっくり返し、両足に深刻な火傷を負いました。痕は治療を重ねましたが、完全に…

浅草

母の秘密の願い

都会の喧騒とは異なる田舎の空気。 私はその中で母の日常を想像していた。彼女はいつも家のことに追われ、人混みの多い場所に足を運ぶことはなかった。私が東京に単身赴任してからも、母は…

水族館

忘れられない君への手紙

あなたは本当に、俺を困らせたよね。 あの日、バスの中でいきなり大声で「付き合ってください!」って言った時から、もう、困ったもんだ。 みんなの視線が痛かったよ。 初デ…

親子(フリー写真)

生んでくれてありがとう

母が死んで今日で一年が経つ。 高齢出産だったこともあり、俺の同年代の友達の親と比べると明らかに歳を取っていた。 「何でもっと若い頃に生んでくれなかったの!?」 と責め…

親子(フリー写真)

娘が好きだったハム太郎

娘が六歳で死んだ。 ある日突然、風呂に入れている最中に意識を失った。 直接の死因は心臓発作なのだが、持病の無い子だったので病院も不審に思ったらしく、俺は警察の事情聴取まで受…

猫

白猫のミーコ

長い間、私たち家族の一員として過ごしてきたのは、白くてふわふわな猫、ミーコだった。私がこの世に生まれてくる前から、彼女は私たちと一緒にいた。 子供の頃、私はミーコが大好きだった…

繋がれた手(フリー写真)

彼との最後の夜

一年間、同棲していた彼が他界した。 大喧嘩をした日、交通事故に遭ったのだ。 本当に突然の出来事だった。 ※ その日は付き合って三年目の記念すべき夜だった。 しかし…

手繋ぎ

重なる運命のメッセージ

彼と彼女は、いつものツタヤの駐車場で待ち合わせをしました。お互いに重要な話があり、緊張しながら集まった二人は、メールで心の内を伝え合うことにしました。 彼は重い告白をしました。…