君の笑顔のために

公開日: ちょっと切ない話 | 恋愛

女子高生

高校二年生の夏、僕は恋をした。

好きで、好きで、堪らなかった。

その相手を好きになったきっかけは、僕がクラスでひどいいじめに遭い、生きる意味さえ分からなくなっていた頃のことだった。

教室の隅でひとり、声を殺して泣いていた時、彼女がそっと近寄ってきた。

そして、静かに言った。

「○○に涙なんて似合わないぞ。ほら、笑いなよ! 私、笑ってるあんたの顔が好きだよ」

その言葉は、あまりにも温かく、あまりにも優しかった。

それからの僕は、どれだけ辛くても笑顔を絶やさなかった。

涙は封じ込めた。

すると、次第にいじめは無くなり、気がつけば僕の周りには友達ができていた。

あのときの僕を救ってくれたのは、間違いなく彼女だった。

それ以来、僕は彼女を想い続けた。

気づけば高校生活も終わりが近づいていた。

何度も、何度も告白しようとした。

でも、怖かった。好き過ぎたからこそ、失うことが怖かった。

何も言えないまま時間は流れ、ようやく僕は卒業式の日に想いを伝える決意をした。

卒業式の三日前の朝。

「今日こそは、おはようと笑顔で声をかけて、放課後に告白しよう」

そう心に決めて、教室を見渡した。

けれど、彼女の姿はなかった。

「入試が近いから休んだのかな…」

そんなふうに自分に言い聞かせていたとき、担任の先生が沈痛な面持ちで教室に入ってきた。

そして静かに、言った。

「△△さんが、昨日の帰り道に交通事故に遭い、今朝、病院で亡くなりました」

時間が止まった。

言葉の意味が理解できず、みんなが泣き始める中で、僕はただ呆然と立ち尽くしていた。

お通夜の日。

棺の中で眠る、真っ白に清められた彼女の顔を見た瞬間、ようやく涙がこぼれた。

ふと祭壇に目をやると、遺影の中の彼女が笑っていた。

その笑顔を見たとき、彼女がかけてくれたあの言葉が思い出された。

「○○に涙なんて似合わないぞ。笑って」

僕は涙を流しながら、必死に笑った。

周りの参列者には、死を前にして笑う僕はきっと奇異に映っただろう。

でも、それでも構わなかった。

彼女の遺影の前で、僕は笑顔を貫いた。

それから二年が経ち、同窓会が開かれた。

あの頃の仲間たちと久々に再会し、懐かしい話で笑い合っていたとき、クラスの女子がふと教えてくれた。

「実はね、△△ちゃん、高校のとき○○のことが好きだったんだよ」

その瞬間、僕は崩れ落ちた。

泣いた。声を上げて、何も気にせず、ただただ泣いた。

どうして、どうして早く伝えなかったんだろう。

彼女は僕を想ってくれていたのに。

僕はそのことを、知らずにいた。

泣いて、泣いて、そして最後にまた、僕は笑った。

彼女がくれた言葉は、今も僕の中で生き続けている。

きっとこれからも、僕は笑って生きていく。

彼女があの時、教えてくれたように。

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