彼の真意

公開日: ちょっと切ない話 | 恋愛

恋人同士(フリー写真)

今年の5月まで付き合っていた彼の話。

料理が好きで、調理場でバイトをしていた。

付き合い始めの頃、私が作った味噌汁に、溶け残りの味噌が固まって入っていたことがあった。

飲み終えてから気付いて、恥ずかしさから

「どうして早く言わないの!?」

と怒った私に、

「好きな人が作ってくれたものは、みんな美味しいんだよ」

と言ってくれた。

彼は、よく美味しい料理を作ってくれた。

私よりかなり上手。

そのうち、私の料理がまずければ正直に、

「まずい」

と言うようになった。

「料理が上手になって欲しいから」

と言う。

料理する度に文句を言われるから、

『長く付き合うと、優しくなくなるんだなぁ』

なんて思って、せがまれても作らなくなった。

彼とは5月に別れた。

彼のことを好きかどうか分からなくなって。

彼は、優しかった。

彼から別れを切り出した。

私の気持ちに気付いていると思わなかった。

次第に冷たい態度を取って行っていたのだと思う。

自分の鈍感さに、非道さに気付いて泣いた。

何度も謝ったけど、彼への仕打ちは消えない。

好きな気持ちが離れて行くのを、彼はずっと気付いていた。

どうすることもできず、いつものように振る舞って、ついには自分から私を手放した。

望んでいないのに。

私よりずっとキツイ仕事をしているのに、

通って来てくれて、

料理を作ってくれて、

愛してくれた。

思えば、別れの数ヶ月くらい前から

「俺のこと好き?」

と聞くようになった。

冗談のつもりで、

「嫌い」

と言った私。

寂しそうな顔は演技だと思っていた。

今になって思う。

まずくても、不恰好でも、それでも私の手料理が良かったんだよね。

彼より料理が下手で、それを気にする私に、料理を教えようとして正直な感想を述べてくれていたんだよね。

なのにそのことに気付かず、努力もせず、手伝いもしないでご飯を作ってもらっていた。

ろくにお礼も言わなかった。

今更遅いけど、ごめんね。

こんな女が最初の彼女でごめんね。

こんな私を愛してくれて、本当にありがとう。

料理をすると彼が思い出される。

連絡をしたらきっとまた傷つけてしまう。

伝えたいけどもう伝えられない、感謝と後悔。

関連記事

母の手

あのハンバーグの味

私の母は生まれながらにして両腕に障害を持っていました。 そのため、家庭の料理はほとんど父が担当していたのです。 しかし学校の遠足などで弁当が必要な時は、母が一生懸命に作っ…

恋人同士(フリー写真)

抱き締められなかった背中

私が中学生の時の話です。 当時、私には恋人のような人が居た。 『ような』というのは、付き合う約束はしていたけど、まだ付き合い始めていない状況だったため。 子供ながらに…

結婚指輪(フリー写真)

ずっと笑っていてね

去年の夏、彼女が逝きました。 ある日、体調が優れないので病院へ。 検査の結果、癌。 余命半年と診断されました。 最期まで「もっと生きたい」「死にたくない」とは言…

赤ちゃん

とおしゃん

今日、息子が俺の事を「とおしゃん」と呼んだ。 成長が遅れ気味かもしれないと言われていた子で、言葉も覚えるのも遅かったから、あまりの嬉しさに涙が出た。 「嫁か息子か選べ」 …

猫(フリー写真)

鳴かない猫

昔話だけど。 実家の猫は赤ちゃんの時、空き地で目も潰れて放置され、泣き喚いていたところを保護したんだ。 正直、化け猫のようで触るのも躊躇するほどの悲惨さだった。 目は…

手をつなぐカップル(フリー写真)

未来への遺言

私の初恋の人、かつての彼氏がこの世を去りました。 若さゆえに我儘を尽くし、悔いが残る行為ばかりでした。 ある日、突如として「別れて欲しい」と告げられ、私は意地を張って「い…

公園

公園での約束

芸人の江頭さんが公園でロケをしている時、隣の病院から来た車椅子の女の子がその様子を眺めていました。ロケが終わると、女の子は「つまらねーの」と小声で呟きました。 江頭さんが聞き返…

新婦(フリー写真)

父が隠していた物

友人(新郎)の結婚披露宴での出来事。 タイムスケジュールも最後の方、新婦の父親のスピーチ。 ※ 「明子。明子が生まれてすぐ、お前のお母さんは病気で亡くなりました。 お前…

宝物ボックス

あの時のペンダント

俺が中学2年生だったときの話だ。 当時、幼馴染のKという女の子がいた。 小さい頃からよく一緒に遊んでいて、気づけば俺はKに恋心を抱くようになっていた。 でも、Kには…

病院のベッド(フリー写真)

貴重な家族写真

俺が小さい頃に撮った家族写真が一枚ある。 見た目は普通の写真なのだけど、実はその時父が難病を宣告され、それほど持たないだろうと言われ、入院前に今生最後の写真はせめて家族と…と撮っ…