花火とプロポーズ

公開日: ちょっと切ない話 | 恋愛 | 長編

花火(フリー写真)

2012年の夏。

付き合って2年になる彼女がいた。

彼女とは中学の同級生で、成人してから付き合い始めた。

同窓会で2年振りの再会。

お互いにどんな性格なのか、趣味が何なのかなど知っていたので、付き合うまでにそう時間は掛からなかった。

彼女の家と、俺の家は近かったが、毎日会う訳でもなかった。

連絡も気まぐれにするような感じで、頻繁という訳でもなかった。

だけど俺は彼女のことが大好きで、

『きっとこいつと結婚するんだろうな』

という思いが、心の中にあった。

付き合って2年目の夏、

「今年も花火行こう!」「夏祭りに出掛けよう!」

と、彼女との恒例の話が始まった。

結婚も現実味を帯び、

『今年はこのイベントを使ってプロポーズをしよう!』

と決めていた俺だった。

『どんな風に言えば彼女は喜んでくれるだろうか、どう伝えれば彼女の心に響くのだろう』

と悩みに悩み、プロポーズする日ギリギリまで、毎日のように紙に書いてはこうじゃない、こうでもない、と考えていた。

やがてプロポーズの言葉も決まり、後はメッセージ花火に乗せて伝えるだけ。

『彼女は驚くだろうか? 笑うのかな? 泣くのかな?』

なんて想像をしながら、プロポーズの日を待った。

プロポーズ前日の朝。

彼女から、

『今日は友達と遊びに行って来るね。明日の浴衣を買いに行って来るわ!どんなんにしよかな~? 楽しみにしてて』

とメールが入っていた。

俺は想像を膨らませ、仕事に出掛けた。

仕事が終わり、帰宅しようと携帯の電源を入れた。

すると、一本の電話が鳴った。

彼女の家族からだった。

「○○(俺)君、今から△△病院まで来てくれる?」

『何で病院?』と若干パニックになりながらも、俺は急いで向かった。

病院の入り口で彼女の家族が待っていた。

「何があったんですか?」

と聞く俺に、彼女の家族が

「あのね、落ち着いて聞いてね。

今日の朝、出掛けると言って出て行った□□(彼女)が事故に遭って。

打ちどころが悪くて今、意識が無いの。

今夜が山って言われて」

俺は頭の中が真っ白になった。

急いでICUに向かうと、スヤスヤ眠っている彼女。

その姿を見て、

『何だ、オーバーな。寝てるだけじゃないか。今夜が山? 朝になれば目を覚ますやろ』

と、俺は思った。

朝になっても目を覚まさない彼女。

峠を越えたと思ったが、プロポーズ当日の夜になっても目を覚まさない。

花火の時間になり、会場近くだった病院の周りは人で埋め尽くされて行った。

病院の窓から見える花火。

本当なら今頃、俺は彼女や友人たちと一緒に、この花火を見ているよな。

彼女は新しい浴衣を着て、俺の横で

「綺麗やね~!」

と満面の笑顔で言っているよな。

なんて、考えながら花火を見ていた。

メッセージ花火の時間。

会場からアナウンサーの声が聞こえた。

「○○さんから□□さんへ。

至らない俺やけど、これからの人生、俺の横でずっとその素敵な笑顔を見せてくれへん?」

というプロポーズの言葉と共に、彼女への花火が打ち上がった。

花火終了の時刻。

とうとう意識も戻らず、家族や友人に見守られながら、彼女は息を引き取った。

あれから2年。

今年も花火の季節がやって来る。

あの時、どんな風に返事をしてくれたのか。

今となってはもう分からない。

関連記事

カップル(フリー写真)

大好きだった彼

あれは今から1年半前。大学3年になりたての春。 大学の授業が終わり、帰り支度をしている時に携帯が鳴った。 着信画面を見ると、彼の親友でした。 珍しいなと思って電話に出…

母(フリー写真)

母のビデオテープ

俺は小さい頃に母親を亡くしている。 それで中学生の頃は恥ずかしいほどグレた。 親父の留守中、家に金が無いかタンスの中を探していると、一本のビデオテープがあった。 俺は…

シャム猫(フリー写真)

父親と猫のミル

家にはもう十年飼っていた猫が居たんだ。 家の前は昔、大きな広場で、その猫はその広場の片隅にある車の中で寝ていた子猫だった。 俺と姉ちゃんでその猫を家の庭まで連れ帰って来ちゃ…

父の日のプレゼント(フリー写真)

見知らぬおじさん

私には妻が居たが、一人娘が1歳と2ヶ月の時、離婚することになった。 酒癖の悪かった私は暴力を振るうこともあり、幼い娘に危害が及ぼすことを恐れた妻が、子供を守るために選んだ道だった…

婚約指輪(フリー写真)

玩具の指輪

高校生の頃の話。 小さな頃から幼馴染の女がいるのだが、その子とは本当に仲が良かった。 小学生の頃、親父が左手の薬指に着けていた指輪が気になって、 「何でずっと着けてる…

差し伸べる手(フリー写真)

俺を育ててくれた兄貴

俺を育ててくれた兄貴が正月に結婚したんだ。 兄貴と言っても、血は繋がっていないけれど。 ※ 自分が5歳の時に親父が死んでから、母親が女手一つで育ててくれた。 親父と結婚…

ウェディングドレスの女性(フリー写真)

俺の娘が、俺の嫁になった話

俺には、嫁がいない。 正確に言えば、嫁はいたのだが、病気で先立ってしまった。 ただ、俺には10歳の娘がいる。 娘は本当にヤンチャで、しょっちゅうケンカして帰って来る…

夕日と花

「つまんないことに負けんなよ」

僕は小さい頃、両親に捨てられました。 それから、あちこちを転々として、生きてきました。 小さな頃の僕は、「施設の子」「いつも同じ服を着た乞食」と、後ろ指をさされる存在でし…

海

忘れ得ぬ誓い

彼女の心は遠くへ旅立ってしまいました。普段の彼女からは想像もつかないような瞬間が、次第に日常となっていきました。 夜中になっても突如として昼食を準備し始める彼女。 そして…

タクシー(フリー写真)

台風の日

タクシーの中でお客さんとどんな話をするか、平均で10分前後の短い時間で完結する話題と言えばやはり天気の話になります。 今日の福岡は台風11号の余波で、朝から断続的に激しい雨が降っ…