父のノート

公開日: ちょっと切ない話 | 家族 | 心温まる話 |

花嫁

大学生の時、友人Aちゃんと彼氏B君は同棲を始めました。二人は若く、両親からは「結婚はまだまだ先のこと。責任ある交際を」と言われていました。

大学3年のとき、Aちゃんの家族にのみ伝えられた悲報がありました。彼女のお父さんが癌であり、余命が1年もないとのことでした。AちゃんとB君は将来を考えており、お父さんにAちゃんの花嫁姿を見せたい一心で、計画的に妊娠し、結婚を決めました。

妊娠を報告したとき、Aちゃんはお父さんに強く反対され、罵倒されることもありました。しかし、お父さんには自身の病状を打ち明けることができず、「生きているうちに孫と花嫁姿を見せたかった」という真意を隠し続けました。何度も説得の末、ついに結婚を許してもらえました。

結婚式の日、お父さんは痩せ細る体を押して、車椅子を断り、Aちゃんと一緒にチャペルのバージンロードを自力で歩きました。その姿に、私は感動と複雑な気持ちで涙が止まりませんでした。

無事に結婚式を終えた二ヶ月後、Aちゃんは健康な赤ちゃんを出産しました。お父さんはその赤ちゃんを抱っこし、幸せな表情で微笑みました。そして、その一週間後に亡くなりました。

お父さんのお葬式の後、彼の遺品の中からノートが見つかりました。ノートには、自分の死を覚悟していたこと、花嫁姿を見られたこと、孫を抱けたことへの感謝の言葉が綴られていました。

それを知ったとき、Aちゃんは改めて、お父さんの愛と偉大さを感じ、深く感謝しました。そして私も、この話を通じて、家族の絆の大切さを改めて感じることができました。


note 開設のお知らせ

いつも当ブログをご愛読いただき、誠にありがとうございます。
今後もこちらでの更新は続けてまいりますが、note では、より頻度高く記事を投稿しております。

同じテーマの別エピソードも掲載しておりますので、併せてご覧いただけますと幸いです。

泣ける話・感動の実話まとめ - ラクリマ | note

最新情報は ラクリマ公式 X アカウント にて随時発信しております。ぜひフォローいただけますと幸いです。

関連記事

デジカメを持つ女性(フリー写真)

母がデジカメを買った

機械音痴の母がデジカメを買った。 とても嬉しいらしく、はしゃぎながら色々なものを撮っていた。 ※ 何日か経った頃、メモリが一杯で写せなくなったらしく 「どうすればいいの…

手を繋ぐカップル(フリー写真)

人に優しくあるためには

私は事故に遭い、足が不自由になってしまいました。 車椅子なしでは外出も出来ませんし、トイレも昔のようにスムーズに行うことが出来ません。 そんな私から友人たちも離れて行きまし…

イチゴのショートケーキ(フリー写真)

イチゴショートと女の子

俺がケーキ屋で支払いをしていると、自動ドアが開いて、幼稚園児くらいの女の子が入って来た。 女の子は一人で買い物に来たらしく、極度の緊張からか、頬を赤く染め真剣な眼差しで店員に …

病室(フリー写真)

おばあちゃんの愛

私のばあちゃんは、いつも沢山湿布をくれた。 しかも肌色のちょっと高い物。 中学生だった私はそれを良く思っていなかった。 私は足に小さな障害があった。 けれど日…

あじさい

雨の日の再会

もう二十年前のことです。私が小さい頃、両親は離婚し、私は施設で育ちました。その後、三歳の時に今の親に引き取られ、その家庭で育ちました。私はその親を本当の親と思っていましたが、中学二年…

子供たち

道に咲く愛

ひとりの女性の人生が、いま世界中の人々の心を揺さぶっています。 その名は楼小英(ロウ・シャオイン)。現在88歳の彼女は、腎不全を患い病床にありますが、これまでの人生で築き上げた…

手紙

パパと綴られた手紙

私が30歳になった年、ひとつ年下の彼女と結婚しました。 今、私たちには、娘が三人、息子が一人います。 長女は19歳で、次女は17歳、三女は12歳。 そして、長男は1…

民家

救いの手

3年前の夏、金融屋として働いていた私は、いつものように債務者の家を訪れました。しかし、親は姿を消し、5歳の男の子と3歳の女の子だけが残されていました。 私はまだ新米で、恐ろしい…

手のひら(フリー写真)

出会い

昔、美術館でバイトをしていた。 その日の仕事は、地元の公募展の受け付け作業。 一緒に審査員の先生も一人同席してくれる。 その時に同席してくれたのは、優しいおじいちゃん…

スケッチブック(フリー写真)

手作りのアルバム

うちは貧乏な母子家庭で、俺が生まれた時はカメラなんて無かった。 だから写真の代わりに、母さんが色鉛筆で俺の絵を描いてアルバムにしていた。 絵は決して上手ではない。 た…