愛の記憶

公開日: 夫婦 | 心温まる話

夫婦

嫁がお風呂に入っている間に、つい彼女の携帯を見てしまった。

メールボックスには、私が送った些細な内容のメールばかりが溢れていた。

しかし、あるフォルダを開くと、そこには知らない男からの、嫁宛の甘い内容のメールが溜まっていた。100通は超えているだろう。

感情が昂ぶり、嫁がお風呂から上がるなり、そのメールについて問い詰めた。

すると嫁は笑顔で、

「自分が送ったメールを忘れてしまったの?」

と返した。私はその瞬間、何も言えなくなった。

よく見ると、差出人は私の昔の番号だったのだ。

その場で嫁の携帯の電池がほぼなくなっていることに気づいた。彼女は何年も前から同じ携帯を使い続けていた。

「なぜ機種変更しないの?」と聞くと、嫁は淡々と、

「メールが消えるのが嫌だったから」

と答えた。

そんな嫁の想いに、私は携帯を盗み見たことを深く後悔し、謝罪した。

嫁は笑いながら、

「こんな私を愛してくれる人は、あなた以外にいない」

と言い、私を強く抱きしめた。

この週末、私は嫁の携帯を機種変更しに行く。もちろん、私の費用で。

彼女が大切にしていた過去の言葉たちを失わずに、新しい日々を築いていくために。

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