約束の午後五時

僕の友達が、事故で亡くなった。
本当に突然の出来事で、何が何だか理解できず、涙すら出なかった。
葬式には、クラスの仲間やたくさんの友達が集まっていた。
遺影の中の彼は、いつものように笑っていた。
僕にいつも見せてくれていた、あの優しい笑顔だった。
その笑顔を見ていたら、気づかないうちに涙が頬を伝っていた。
それが唇まで流れてきて、「塩っぱいな」と思った瞬間、自分が泣いていることにやっと気づいた。
いたたまれなくなって、僕は葬式会場を飛び出していた。
※
次の日、僕は何気なくパソコンのメールを開いた。
すると、そこには――亡くなった友達からのメールが届いていた。
日付を見ると、事故当日。
心臓がドクンと大きく脈打つのを感じながら、僕はメールを開いた。
「明後日、いつも学校帰りに通る公園で待ってるから。午後5時にね。遅れるなよ」
まるで、生きているみたいな自然な文章だった。
「なんで、こんな時に……?」と頭では混乱しながらも、心のどこかで「これは特別な何かだ」と感じていた。
実はその日は、僕の誕生日だった。
そして家族で、隣の県に住むおじいちゃんの家へ行く予定になっていた。
高速道路を使って、みんなで車に乗って出発するはずだった。
だけど、僕はおじいちゃんに電話をかけ、「今日は行けない」と伝えた。
親にも「どうしても外せない用事がある」と話し、旅行は中止になった。
※
メールの通り、僕はその日、公園に向かった。
午後5時、時計台の鐘が鳴り響いた。
誰も来るはずがないのは分かっていたけれど、なぜかその場を離れたくなかった。
鐘の音を聞きながら、彼と過ごした日々を静かに思い出していた。
あの時の笑顔、他愛ない会話、意味もなく笑いあった放課後。
全てが鮮明に蘇ってきて、胸の奥がキュッと痛んだ。
そして僕は、ゆっくりと家路についた。
※
家に着くと、親が血相を変えてテレビの前にいた。
「さっきニュースでやってたんだけどね……」
母の声が震えていた。
「今日通る予定だった高速道路で、大きな玉突き事故があったのよ。もし予定通りに行ってたら、私たちも巻き込まれていたかもしれない……」
僕はハッとした。
――助けられたんだ。
あのメールがなければ、僕たちは事故に巻き込まれていたかもしれない。
僕の誕生日に、僕の命を救ってくれたのは、きっと、あの友達だった。
あの「午後5時の約束」は、ただの偶然なんかじゃない。
彼が、向こうの世界から送ってくれた、最後のプレゼントだったんだ。
※
今でも、あのメールは僕のパソコンに残してある。
そして、毎年、誕生日にはあの公園へ行く。
誰もいなくても、あの鐘の音を聞くと、どこかで彼が見てくれている気がする。
ありがとう。
今も、ずっと、僕の中で生きているよ。