戦時中のパラオにて
遠い南の島に、日本の歌を歌う老人が居た。
「あそこでみんな、死んで行ったんだ…」
沖に浮かぶ島を指差しながら、老人は呟いた。
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太平洋戦争の時、その島には日本軍が進駐し陣地が作られた。
老人は村の若者達と共に、その作業に参加した。
日本兵とはすぐ仲良くなり、日本の歌を一緒に歌ったりしたという。
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やがて戦況は日本不利となり、いつ米軍が上陸してもおかしくない状況になった。
仲間達と話し合った彼は、代表数人と共に、日本の守備隊長の元を訪れた。
自分達も一緒に戦わせて欲しい、と。
それを聞くなり、隊長は激高し叫んだという。
「帝国軍人が、貴様ら土人と一緒に戦えるか!」
日本人は仲間だと思っていたのに…見せかけだったのか。
裏切られたような気持ちで、みな悔し涙を流した…。
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船に乗って島を去る日、日本兵は誰一人見送りに来ない。
村の若者達は、悄然と船に乗り込んだ。
しかし船が島を離れた瞬間、日本兵全員が浜に走り出て来た。
そして一緒に歌った日本の歌を歌いながら、手を振って彼らを見送った。
先頭には笑顔で手を振るあの隊長が。
その瞬間、彼は悟ったという。
あの言葉は、自分達を救うためのものだったのだと…。