親孝行したい時に
高校を卒業してから4年間、何もせずに家でお金を使うことしかしていなかった。
オンラインゲームをしたりゲームを買ったり。偶に親に怒鳴り散らしたりもした。
そんな駄目な俺が2年くらい前に、カーチャンスレを見てから必死でバイトと勉強を始めた。
そしてようやくCMにも出ているような大手企業に就職できた。
本当に嬉しかったよ。
やっと親孝行が出来ると思った。
※
去年、ある程度お金が貯まったから旅行に連れて行こうと思って、内緒で旅行を予約した。
定番だけど温泉ね。出発の一ヶ月前に家に帰って発表したら、
「ありがとう……本当にありがとう……」
と、涙を流しながら喜んでくれたんだ。
この為にお金を貯めたんだと思うほど嬉しかった。
母さんはそれを近所に自慢していて、近所のおばちゃんから帰省の時に言われた時は恥ずかしかった(笑)。
※
出発の3日前になって電話が掛かって来た。
でも仕事中だから電話に出られず、その時は無視していた。
後でかけ直したら親父が出てさ、
「旅行は中止だ……」
と涙声で言う。訳が解らなくて、
「何でだよ? 風邪でもひいたの?」
と聞き返したんだ。そしたら、
「母さんが……轢き逃げされて……それで……」
頭が真っ白になって、その後はよく覚えていない。
気が付いたら葬式の準備が進んでいた。
※
母さんは結局、2日間意識不明の後、容態が急変して死んでしまった。
楽しみにしていた旅行が、最悪の轢き逃げのせいで葬式になってしまった。
母さんの遺品を整理しながら自分を悔やんだね。
何故、もっと早く親孝行出来なかったのかと。
※
遺品の中にあった日記帳には、
『○○が旅行を予約しててくれたみたい。やったー!』
『旅行まで残り3日!!前日には○○も来るだろうから、いっぱいご馳走を作れるようにしとかなくちゃ!」
とギッシリ書いてあった。
それを見てたら泣けて来てさ。
日記帳の文字が滲んで読めなくなるほど、涙がボロボロと流れてきたんだ。
※
その後、家から出て行って犯人を捜したけど結局見つからなかった。
多分、捜査は殆ど終わっていると思う。
こんな事が起こる前に、親孝行は早くした方が良いと、この話で伝えたかった。
今は父さんに恩返ししています。