ママの棺

公開日: ちょっと切ない話 | 家族 | 悲しい話 |

青い花(フリー写真)

この間、1歳半の息子を連れて友人の家へ行った時に、友人の祖母から聞いた話です。

友人がちょうど1歳半の時、お母さんが癌になったそうです。

気付いた時にはもう手遅れで、一ヶ月も経たずに亡くなってしまいました。

友人は冷たくなって帰って来たママに、

「おっき、おっき」

と言っていましたが、すぐに起きないと解りました。

そして肩をトントン叩いて寝かし付ける真似をした後、お腹の上に乗り、うつぶせラッコ寝状態で自分も眠ってしまったそうです。

次の日、ママが棺に入れられる時、友人はママを持ち上げようと取り囲む人たちを泣きながら叩いて、

「マーマ!マーマ!」

と凄い力で引っ張り、引き離そうとしていました。

大人に外へ連れて行かれても、

「ママ!」

と叫ぶ声が聞こえてくる程でした。

暫くして友人が戻ると、棺に釘が打ち込まれた後でした。

それでも友人は、

「ママ!ママ!」

と泣き叫びながら棺を開けようとして、打ち込んだ釘を引き抜こうと一生懸命になっていました。

それでも棺は運ばれて行き、友人は家に置いて行かれました。

友人の祖母が帰ると、友人は眠っていました。

留守番の人の話によると、泣いて泣いて、突然ふっと気を失うように眠ってしまったそうです。

その後、起きた友人は声が枯れてしまっていました。

でも、それ以来、訳が解らなくなるほど泣く事はありませんでした。

そして、言葉も話さなくなりました。

2歳過ぎまで一言も単語を言わなかったそうです。

あの時の事は忘れられない、と友人の祖母は泣きながら話してくれました。

それから21年。友人は来月、ママになります。

関連記事

レトロなサイダー瓶(フリー写真)

子供時代の夏

大昔は、8月上旬は30℃を超えるのが夏だった。朝晩は涼しかった。 8月の下旬には、もう夕方の風が寂しくて秋の気配がした。 泥だらけになって遊びから帰って来ると、まず玄関に入…

バス停の女の子

千穂姉ちゃんが待っていたもの

俺が小学三年生の夏休みに体験した話だ。 今の今まで、すっかり忘れていた。 ※ 小学校の夏休みといえば、遊びまくった記憶しかない。 午前中は勉強しろという先生の…

愛

愛してるって、もう一度言ってよ

大好きなあなたは、今も笑っているのでしょうか。 ※ 私が7歳のとき。なぜか実の親元ではなく、おじいちゃんに引き取られました。 そこで出会ったのは、三人の男の子。 …

民家

最後まで泣けなくて

僕は先月7月22日に父方の祖母を亡くしました。72歳。あと1週間生きていれば73歳でした。 普段から僕は祖母を「ばあば」と呼んでいました。高校生にもなってこんな呼び方恥ずかしい…

夕日と夫婦(フリー写真)

どうしてですか(゚Д゚)ゴルァ!

どうして私がいつもダイエットしている時に、(・∀・)ニヤニヤと見つめやがりますか(゚Д゚)ゴルァ! どうして私が悪いのに、ケンカになると先に謝りますか(゚Д゚)ゴルァ! …

親子

「おかえり」と言ってくれる人

私は、父が大好きだ。 いつも優しくて、笑顔を絶やさない人。 私がいじめられていたときも、誰よりも真剣に話を聞いてくれて、守ってくれた。 ※ 父の職場は遠くて、…

彼女(フリー写真)

彼女の導き

もう2年も前の話になる。 当時、俺は医学生だった。彼女も居た。 世の中にこれ以上、良い女は居ないと思う程の女性だった。 しかし彼女はまだ若かったにも関わらず、突如とし…

手紙(フリー写真)

亡くなった旦那からの手紙

妊娠と同時に旦那の癌が発覚。 子供の顔を見るまでは…と頑張ってくれたのだけど、ちょっと間に合わなかった。 旦那が居なくなってしまってから、一人必死で息子を育てている。 …

ベゴニア(フリー写真)

初めて好きになった人

俺が小学6年生の頃の話。 俺は当時、親の転勤で都会から田舎へと引っ越しをした。時期はちょうど夏休み。全く知らない土地で暮らすのはこれで五回目だった。 引っ越しが終わり、夏休…

古いアパート

小さなおにぎり

今から20年以上も前のこと。当時の私は、オンボロアパートで一人暮らしをしていました。 給料は安く、貯金もなくて、贅沢なんて夢のまた夢。それでも「無いなら無いなりに」と、なんとか…