子供時代の夏
大昔は、8月上旬は30℃を超えるのが夏だった。朝晩は涼しかった。
8月の下旬には、もう夕方の風が寂しくて秋の気配がした。
泥だらけになって遊びから帰って来ると、まず玄関に入ったところで台所のお母さんから叫ばれる。
「ハイハイしてお風呂場行きなさーい!」
服を全部脱いでお風呂に入っている間に、着替え(薄い綿のワンピとパンツ)を出してもらう。
お風呂から出ると、お父さんがテレビを視ている。枝豆と汗かいた瓶ビールと、首を振っている扇風機。
食後にチューチューアイスを兄弟で半分こ。
テレビは『8時だョ!全員集合』派だった。
※
お父さんが蚊帳を八畳間に吊って、漫画本を抱えて入る。
さっと入らないと蚊が入るので、さながら忍者のように。
早々に漫画を読み終わってしまい、次のを取って来たいけどもう眠い。
電気を消すと網戸の外がほんのり明るい夏の夜で、蚊取り線香の先っちょが赤く光っている。
のそっとお父さんが入って来て、兄弟の向こう側に寝る。手を振ると振り返す。
大分経ってから扇風機が停められ、お母さんが自分の隣に入って来る。
そして、うちわを持って扇いでくれる。
お母さんの方が寝つきが良く、うちわがコトッと落ちる。
するとお父さんが起き上がってうちわを取り、扇いでくれる。
それが止まるのを、起きて見られたことは一度も無かった。
※
お父さんとお母さんが居た頃の夏。
兄弟とこの手の思い出話をしたことはまだ無い。泣いちゃうから。
じいちゃんとばあちゃんになったら、冷たい麦茶を飲みながら話してみたい。
あの時の夏は楽しかったね、と。